240.父

大きな問題もなく探索終了、夕食、滞りなく解散となって、ヒメマルとブルーベルはカイルの父の家へと案内された。
夕暮れの街をしばらく歩いてたどり着いた家の入り口には、看板がかけてある。

* 診療所 * 
各種 キズ ケガ 治します 
医師 バベル(ビショップ) 
診察時間:起きている時

「…ここ?」
ヒメマルがなんともいえない表情でカイルを見た。
「呆れた文句だろう。いい加減な人でな」
「…いや、…なんていうか…、カイルのお父さんが、バベルさんなの?」
「…そうだが」
「…」
ヒメマルは首を捻った。
「じゃあ、カイルも混血なのか?」
ブルーベルが訊く。
「…なんだ。2人とも、彼のことを知ってるのか」
「ちょっとお世話になった」
ブルーベルが笑う。
「俺がいても、手ぇ出したよ~」
ヒメマルは口をとがらせた。
「それはすまない」
「別にいいよ」
ブルーベルがけろりと答える。
「よくないよ~」
「紹介は必要ないか?」
「カイルを通して会っておきたいな」
「わかった」
ふくれているヒメマルを尻目に、カイルはドアを軽くノックしてから開いた。

診察室は無人で、がらんとしていた。
「いない?」
部屋を見回してブルーベルが言う。
「寝ているのかも知れん」
カイルが奥へ入っていった。
ヒメマルは白いベッドに、ブルーベルは丸椅子に腰を下ろした。
「やだなあ」
ヒメマルが不満を顔に出す。
「何が?」
「カイルが、バベルさんには色んな友達がいるって言ってたじゃない」
「うん」
「紹介するたびにベルと寝ようとするんじゃないの、あの人」
「ああ、そうかも」
「そうかもじゃないよ~」
「いいじゃん、気持ちいいし。ヒメも気持ちよくなれるだろ」
「そりゃ気持ち良かったけど、やだよ~」
そんな会話をしていると、カイルが戻ってきた。

「今、目を覚ました。起きだすまでに少し時間がかかる」
ブルーベルが頷く。カイルはヒメマルの隣に座った。
「血のことだが」
カイルはブルーベルに向かって話し始めた。
「うん」
「私の母は100%のヒューマンで、残り半分が父の要素-多種のミックスになる」
「バベルみたいに、体質のクセはある?」
「残念ながらというべきか、ほとんどないな。魔術の効果がいささか人より強いようには思う」
「…ヒューマンの血が、強いのかな」
「そうだね。ヒューマンの血には中和の要素があるのかも知れないね」
いつの間にか奥の部屋から出てきていたバベルが、大きく身体を伸ばしながら言った。

Back Next
entrance