238.製作者

「僕が雷を好きじゃない理由は話したろう」
ティーカップはトキオに言った。
「うん」
「その事故の時に、このあたりを怪我してね」
ティーカップは、脇腹に手を戻した。
「僕はデリケートなものだから、それ以来ここに刺激があると過剰に気分が悪くなるという困ったクセがついてしまった」
「そっか…」
そういえば、雷の時と同じような顔色だった。
-こんな言い方してるけど、そん時よっぽど怖かったんだろうな…
トキオも子供の頃には色々と怖いことに遭遇したような気はするが、トラウマになるような体験はない。
何十年経っても心身から離れないような恐怖とは、どんなものだろう。
「成人して、もう治ってると思ってたんだがね。今まで運良くここにダメージを受けなかったというだけで、治ってはいなかったんだな」
ティーカップはふぅっと溜息をついて、また「参ったな」と呟いた。

「…なあ」
「うん?」
「握ったって言ったか?さっき」
「ああ」
「…ビアスがそこ握ったのか?」
「あぁそうだ。…なんだ、怖い顔をして」
トキオの表情は険しくなっている。
「お前がそこ弱いの知っててやったんだよな」
「そうだな」
「…」
トキオの顔が更に険しくなった。
ビアスに勝手なライバル心のようなものは持っていても、人物として嫌いなわけではなかった、が-
-どんなケンカでも、そういうことすんのはナシだろ。
急激に腹立たしさが沸き上がってきたが、それをティーカップに言っても仕方がない。
悶々とした気分でいると、
「ワインはないのか?」
ティーカップが空になったグラスを差し出した。
「ん、あるぞ」
トキオは硬くなっていた頬を緩めると、グラスを受け取って立ち上がった。
*
「お久しぶりですね」
オスカーを連れて迷宮入り口に着いたイチジョウは、メンバーと共に待っていたカイルに声をかけた。
カイルが微かに笑って返す。
初顔合わせの者同士でひと通り軽く自己紹介をしてから、パーティは階段を下りた。

「そういえば皆さん、カーニバル最終日に暴れた怪物のことはご存知ですか?」
浅い階を進む途中、オスカーが話し始めた。
「あれを作った妖術師が投獄されたそうですね」
「作った!?」
ブルーベルが食いつく。
「あれ、作られた怪物だったのか、召喚じゃなくて?」
「だそうですよ」
オスカーが振り返って頷く。
「なんの話です?」
イチジョウが訊く。
「我々が馬小屋で話しこんでいた頃、街では怪物が暴れて大変な騒ぎになっていたそうなんですよ」
オスカーの説明に、クロックハンドが付け加える。
「だいぶえげつない怪物やったで」
イチジョウは目を細めた。
「そうだったんですか…。その怪物の製作者が捕まったんですね」
「会ってみたかったな」
ブルーベルの呟きに、
「会いたいか?」
カイルが反応した。
「うん」
「釈放されたら会わせられるかも知れない」
「えっ」
「捕まったのは、私の父の知人なんだ」
「えーっ」
ヒメマルとクロックハンドが声をあげた。
「父は少々変わり者でな。他にもおかしな研究をしている知人が多いんだ。良ければ父と会ってみるか?」
「是非!」
ブルーベルが熱のこもった声で即答する。
「なら、今日の探索が終わったら父の家に行くか」
「うん」
「ヒメマルも一緒に来るといい」
「俺も?お邪魔じゃない?」
「恋人が一緒なら手出ししないだろう」
カイルの返事に、ヒメマルとブルーベルは疑問を乗せた顔を見合わせた。

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