229.ずっと

「やりたいこと色々ありすぎて、何から始めるか悩むなぁ」
ヒメマルに跨ったままで、ブルーベルが呟いた。
「習える場所が見つかった順でいいんじゃない?」
言いながら、ベッドに座っているヒメマルはゆっくり腰を動かす。
「ンっ…、そうか…」
ブルーベルは思わずヒメマルの首筋に額を寄せた。
2人はこうして繋がったまま会話することが多い。
たっぷりとローションを使って、ぬるま湯のような快感を楽しみながら、ゆっくりと話をするのだ。

「精霊魔法は無理かな…俺は混血だし」
ブルーベルが言うと、ヒメマルは尖った耳に口付けした。
「ヒューマンで精霊魔法使う人、見たことあるよ」
「ほんとに?」
「うん。挑戦しといて損はないと思うな」
「じゃあやってみる」
ブルーベルは顔を上げ、ヒメマルに軽くキスをした。ヒメマルは笑顔で応える。
「最初に習えそうなのは錬金術かな」
「今日も沢山見かけたもんね~、錬金術師」
「半分以上は偽者だと思うけど、それでも多かったからな」
「近くの街に、学校があるのかも知れないね」
「学校か…。あの薬作った人に習いたいんだけどな」
「キスする薬?」
「うん、あの人はホムンクルスを実際に作ってるし、薬にも不思議なとこが色々あったし」
「そうなの?」
「そうだよ、だって」
ブルーベルの声に力が入る。
「キスはしたいけどそれ以上は別にしたくないんだ、それってただの媚薬とは違うだろ。それに、好きな相手のとこに走っていくとか言ってた。相手のいる場所がわかる仕組みがよくわからない」
「う~ん、走っていくっていうのは大袈裟に言っただけじゃないのかな?売り文句として」
「そうかなぁ…。また今度一本飲んでみるから、ヒメはどっか遠いとこに行っててくれよ。試してみたい」
「わかった」
ヒメマルはブルーベルの髪に両手を差し込んで、額をぴたりと合わせた。

「ちゃんと俺にキスしてくれて、ほっとしたよ」
「他の誰にするんだよ」
ブルーベルは笑う。
「自信がなかったから」
「今更何言ってんだよ。告白してきた時、自信たっぷりだったじゃないか」
「あの時はね」
ヒメマルは笑って目を閉じた。
「時間が経つほど自信がなくなってくる」
「なんで?」
「ずっと好きでいてもらえるのかな~って心配になってきてね。最近そればっかり考えてるよ」
ヒメマルは目を開けて、額を離した。
「ああ… ずっとは難しいかもな」
「そんなあっさり言わないで~」
ヒメマルが情けない声を出すと、ブルーベルは笑った。
「でも、ずっとヒメと一緒にいたいと思ってるけどな、俺」
「ほんと~!?」
「うん、今のとこはとりあえず」
「う…」
「そうだ、ずっとって言えば」
ブルーベルは思い出したように言うと、ヒメマルの両肩に手を置いて目を輝かせた。

「寿命延ばそうと思ったら、やっぱり魔法かな?」
「な、なに?」
突然の話の方向転換についていけず、ヒメマルはおかしな声で問い返した。
「最近、長い寿命と若い脳を保つ方法なんかも探してるんだ。知りたいこと山ほどあるからさ、100年やそこらの寿命じゃ足りないと思って」
「う、うん」
「若返り系の魔法の話は本に沢山出てるんだよ。でも、どこで研究されてるとか確立されてるっていうような情報は全然なくてさ、おとぎ話とか伝説の延長みたいな話ばっかりなんだ。他になんかいい手ないかな」
「…んん~」
ヒメマルは笑みを浮かべ、考え込むように首を捻った。
「…~と… 吸血鬼になるとか?」
「あっ、それ面白い!!」
ブルーベルは嬉しそうに言った。
「バンパイアロードに噛まれたらなれるかな。でもここの地下にいる吸血鬼って、ゾンビっぽくてなんか頭悪そうだよな。脳みそもちょっと腐ってるっぽい」
「そうだね~、やめといた方がいいかも」
「もっと良さそうな吸血鬼探す」
「うん」
笑顔で頷きながら、
-良さそうな吸血鬼ってどんなのだろ…
ヒメマルは小さく首を傾げた。

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