228.東大陸料理

トキオが選んでおいたのは、東大陸料理の専門店だ。
上品な店にしようかとも思ったのだが、マナーはよくわからないし、正直言ってその手の店で出される料理に満足したこともないし、何より行ったことがないから当然味もわからない-ので、無理せずに自分の好きな系統の店にした。

酢豚を気に入っていたから、嫌がることはないだろう。という憶測もあったのだが-
「これは手で掴むのか?」
「手でもいいけど、熱いからフォークか箸のがいいぞ」
「これはスープまで全部飲むものか?」
「いや、残していいよ」
続々と出てくる見たこともない料理にティーカップは興味津々で、口に運んでは満足そうな顔をして頷いている。
ここを選んだのは正解だったらしい。

「さっきさ、こんな威力の弓は見たことないっつったよな」
トキオは野菜炒めをつつきながら言った。
「ああ」
「てことは、弓自体は結構見たことあんのか?」
「エルフは天性の弓の名手だ。僕の故郷はエルフばかりの国だから、それなりに弓使いも見かけた」
ティーカップは珍しく片頬を膨らませたままで話した。
それを見たトキオの頬はというと、反射的に緩んでいる。
「が、エルフは美しく知性に溢れている代わりに腕力がやや弱い。あんな強弓を使う者はいなかった」
言い終わると、ティーカップは頬を元に戻した。
「じゃあ、あの精霊魔法とか使える奴も、いっぱいいんのか」
「いや。森に住み続けている連中は使えるようだが、街に住んでいるエルフ達にとって精霊は縁遠いものになりつつある」
「お前は街に住んでたのか?」
「僕の家は街中にあるわけじゃないが、森の中でもない。何代も前からヒューマンのような暮らしをしているから、よほど修行しないと使えないだろうな」
「へえぇ…。そんでも、練習すりゃ使えるのか」
「多分な」
ティーカップは春巻きに手を出した。
「それ、中熱いから気つけろよ」
「うむ」
「エルフばっかの国って、ヒューマンが行ったら嫌な顔されるか?」
「僕の故郷では、それはないな。交易で行き来している他の種族は結構いる。森の連中がどう思ってるかは知らないが」
春巻きの端を齧って温度を確かめると、ティーカップは思い切ってかぶりついた。
「そっか、んじゃ…」
「んじゃ?」
「…ぇあ、うん、エルフだけの街に入る時、びびらなくていいんだなと思って」
「街にもよるぞ。時代錯誤な価値観に縛られている連中はまだまだ多い」
「うん」
本当は「それならティーカップの故郷に一緒に行ける」と思ったのだが。
-気が早えって。
トキオは心の中で自分を諌めた。

「君はこの街を出るつもりなのか?」
二つ目の春巻きを口にしながら、ティーカップが言った。
「ん…今日いっぺんに色々見てさ…それ、そこのカラシ醤油とかつけた方が美味いぞ」
「うむ」
「つけすぎつけすぎ、辛いって」
「ふむ」
ティーカップは素直に、つけすぎたカラシをフォークで落としている。
「んで、マジで世界って広いんだと思った。街の外には、俺の知らねえことがもっともっと、山ほどあるんだよなあって」
そう言ってトキオがティーカップを見ると、頬張った量が多すぎて喋れない状態だった。
「…だから、ここで身につけられることがなくなったら、やっぱ出てみようと思う」
トキオが続けると、ティーカップはビールをひと口飲んで、頷いた。
「それがいい。僕も郷を出てから勉強したことが随分あるしな。ところでトキオ君」
「うん?」
「ここの料理は非常に旨いんだが、食材にニンニクやニラが多くないか」
「あ~、明日まずいかな」
トキオは口を押さえた。
ティーカップは腕組みをして目の前の料理群を眺めると、
「…まあ、牛乳でも飲んで、なるべく喋らないようにすればいいんじゃないか」
自分に言い聞かせるように言って、再び箸をつけはじめた。
*
広場での戦闘や、GとEにの違いについて語りながらの食事を済ませて、トキオとティーカップは宿に戻った。
「今日は色々と楽しめた」
部屋のドアの前で、ティーカップはそう言って笑顔を見せた。
「そか、良かった」
トキオがホッとして笑顔を返そうとすると、口元に笑みを残したままのティーカップとぴったり目が合った。
戸惑ったトキオが何度かまばたきすると、ティーカップは目を伏せてまた笑い、
「おやすみ」
と言った。
「う、うん。おやすみ…」
トキオの返事を聞いて片手を上げると、ティーカップは部屋に入って行った。

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