224.闖入者

「偶然なんだけどね~、やっぱり一番盛り上がるとこに集まっちゃうのは仕方ないって言うか」
ヒメマルが言うのに、
「まぁ、それもわからなくはないが」
答えかけて、ティーカップは何かに気付いたように左後方を振り返った。
「どうした?」
トキオもそちらを向く。
ティーカップの視線は、広場に入る道の一本に注がれている。
馬車が二台並んで通ることが出来る、大きな道のひとつだ。
-特にこれといったものも、人も見当たらない。
しかし、ティーカップは注意深くそちらを観察したままだ。
長い耳はぴんと立って、緊張している。
周囲を見てみると、エルフは皆、ティーカップと同じ方向を向いていた。
「…なんや、これ?」
クロックハンドが怪訝な顔をしている。
パットも、クロックハンドを見上げて首を傾げる。
音楽は流れ、ダンスも続いているのに、エルフ達だけが立ち止まってそちらを向いている。
「…どしたんだろ?」
ヒメマルが小さく肩をすくめてブルーベルを見る。
「なんだろう、俺にはわからない」
ブルーベルは首を振った。
「何か来るぞ」
すぐ横に立っているトキオにだけ聞こえる程度の声で、ティーカップは呟いた。

トキオは改めて、ティーカップの見ている方向に目をやった。
相変わらず、これといって何も目に付くものはない
-と、
数人の人々と共に、1人のロードがその道から広場に走りこんできた。
全身をがっちりと鎧に包み、マントをつけ、剣と盾を携えたその姿は、地下迷宮で見ればごく普通の服装なのだが、この広場ではひどく浮いている。

「ここは危険だ、避難しろ!!場所をあけてくれ!!!」
ロードは体全体で息をしながら、大声で叫ぶように言った。
その脇から、続々と人が走りこんでくる。
同じように装備を整えている者もいれば、カーニバルを楽しんでいたであろう服装の者もいる。
立ち止まる者はほとんどいない。そのまま広場の人の間を縫うようにして、あるいはぶつかりながら、必死の形相で駆け抜けていく。

「バケモンがこっちに向かってきてるぞ!この道からだ!」
その中の1人がこう叫んだことで、一瞬の静寂の後、広場は騒然とした。

人間とホビット達は様々に叫び、右往左往しながら逃げ道を探しはじめた。
ドワーフとノーム達は(この場には少なかったが)無言で足早に去っていく。
エルフ達の多くは察しがついていた為か、お互い冷静に言葉を交わしながら移動を始めた。
「戦える者は協力してくれ!」
ロードが大きな声で呼びかけている。
「どないする?」
クロックハンドが困惑気味に言った。
「バケモンってなんだろね。程度によるよねえ」
ヒメマルも困ったような顔で首を捻る。
「カッパ君はともかく、僕達はなんの装備も持っていない。援護するにしても、逃げるにしても、まず被害の及ばない距離を保つべきだ」
ティーカップの言葉に、その場にいた全員が頷いた。

件の道が噴水越しに見える位置に、普段地下へ潜っていると思わしき風体の者達が、3、40人ほど集まっていた。トキオ達もその中に混ざる。

命知らずの野次馬を除けば、戦闘力のない者は、もうほとんど広場には残っていないようだ。
「ウッッゼェなぁ、なんだか知らねえけど、こんなとこに引っ張って来るんじゃねえよ」
トキオの横にいる男が舌打ちした。
細身だが無駄なく筋肉がついている。忍者だろうか。
「そんな言い方はないだろう、勝手にこちらに向かってきたのかも知れない」
側にいる男がいさめるように言う。
-EとGだな。
簡単にわかる。
こんな状況下だが、トキオは少し笑ってしまった。
「俺達に出来るのって、魔法で援護することぐらいだよね~」
ヒメマルがのんびりと言う。
「俺、やることあらへんわ。逃げよっかなぁ」
クロックハンドはまた、頭の後ろで手を組んだ。
「クロック忍者じゃんか!ズバって倒しちゃえ!」
パットが空手のように身構えて、そんなことを言う。
「えー、なんで俺が体はらなあかんねんなぁ、やりたないわぁ」
クロックハンドは投げやりだ。
-こんな時すぐ戦える前衛クラスって忍者ぐらいだけど、忍者は大体Eだもんなぁ。
トキオは周りにいる者達を見た。当然皆、軽装だ。
広場に走りこんできてそのまま残っている者達は10人ほどで、装備が整っているのは3人だけである。
-大丈夫なのかよ。
相手が魔法の効かないモンスターだった場合は、かなりの苦戦になりそうだ。

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