223.急に

トキオ、ブルーベル、ヒメマル、クロックハンド…と、彼についてきたパット。
5人でティーカップのダンスを見学する格好になった。
「エルフは絵になるなぁ~」
ヒメマルが感嘆をこめて言う。
「ほんま、俺の地元はヒューマンばっかりやったから、エルフがこないいっぱい踊ってんの見とったら、なんや別世界に来たような気分になるわ」
そう言いながら、クロックハンドが頭の後ろで両手を組む。
トキオは何も言わず、ティーカップを目で追っている。
その表情を見ていたヒメマルが、口を開いた。
「…トキオさぁ」
「ん?」
トキオは一瞬だけヒメマルを見て、また視線を戻した。
「いい加減、告白しちゃったら」
「…う…」
不意をつかれて、トキオは口篭もった。
「だってさあ。イベント最終日にデートしてるんだよ?少なくとも嫌われてるってことは絶対ないでしょ」
「…か…かな…」
「そうやなぁ。あとはいかに押すか、やと思うねえ」
クロックハンドはニヤリと笑って、トキオを横目で見上げた。
「…、」
トキオは唇を舐めた。
確かに、全く駄目ということはないと…思う。
いけるんじゃないか?と思ったことも(一瞬ではあるが)何度かある。
ビアスのこと、あの薬の効果。
ひっかかっていることもあるが、振られてもいいから告白すると決めたからには、気にしても仕方がない、だろう。
ぎりぎりの所に立っている今、背中を押してくれるきっかけが欲しい。-そう、
「ま…忍者になったらって自分で決めてるからよ、それまでは…」
「ああ、盗賊の短刀あるよ」
「え!?」
ブルーベルの軽い言葉に、トキオは顔じゅう口にして驚いた。

「手に入ってたんだけど、役に立たない状態で転職されても困ると思って、保管しておいた。そろそろいいかもな」
ブルーベルが続ける。
「…、…そ…そんな急に…」
トキオは激しく動揺している。
「グラスのパーティで結構鍛えられただろ?明日渡すよ」
ブルーベルはそう言うと、珍しくはっきりとわかる笑みを浮かべた。
「…う、うん…」
トキオは半ば無意識に、胸に左手を当てた。
掌に、いつもより強めの鼓動を感じ、肩で大きく深呼吸する。
横でパットがクロックハンドに話し掛けている。
トキオのことを聞いているらしい。説明されたパットは、
「へー」
と声をあげ、トキオと、まだ踊っているティーカップを見比べた。

「トキオが忍者になったら、ティーカップの代わりに前衛?」
ヒメマルが、気が付いたように言った。
「その、つもりだ」
トキオがまだ少し緊張を残したままで答えると、
「せやけど、イチジョウとティーのどっちが後衛向きかっちゅうのはよう考えんとな」
「硬いのはティーだけど、破壊力はイチジョウの方がずっと上だな」
「でもティーにはクリティカルがあるよね。呪文のレパートリーが多いイチジョウの方が後衛向きじゃない?」
3人はそれぞれの意見を出し始めた。
「でもまだイチジョウはそんなに魔術師呪文使えるわけじゃねえし、ロードのディスペルは後ろからも使えるから、ティーカップを後衛にした方がいいんじゃねえかな」
トキオは勢いよく反論した。
「トキオ~、愛しのティーを後衛にしたいのはわかるけどさ~」
ヒメマルが首を振って、肩をすくめてみせる。
「俺は、ティーを前衛にする方に一票やな。攻守のバランスが整ってるから」
クロックハンドがはっきりと言う。
「う…、ベル、お前もティーカップが後衛の方がいいって言ってたよな?」
「個人的にはそっちを推したいけど、合理的に考えればティーが前衛の方がいいと思う」
「…、…、…あっ、でもほら、あいつまだ爪も生え揃ってないし、その間だけでもな?」
「頑張るなぁ~」
クロックハンドはニヤニヤと楽しそうに笑っている。
「まぁ、何にしてもリーダーが前衛としていまいちだったら、今までどおり後衛に回ってもらうから」
ブルーベルが言うと、
「そうだね~」
ヒメマルが相槌を打つ。
トキオが言葉を返せずにいると、
「なんだ君達は。休みの日まで集まることはないだろう」
いつの間にかダンスを終えて戻ってきたティーカップが、呆れたように言った。

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