222.集合
ライオンヘッドから少し離れた場所に移動して、「細工物って、具体的にはどんなもんだ?」
椅子を置きなおしながらトキオは訊いた。
「金と白金に宝石をあしらったネックレスだ」
ティーカップもトキオの隣に椅子を置いて、腰を下ろす。
「もしかして、ドワーフ製か?」
「うむ」
「…うーん」
トキオは唸った。
「それが壊れてんのか?」
「鎖が切れている」
「だけか?」
「落ちた拍子に折れた部分もある」
「折れた部品は?」
「置いてある」
「そっか…」
トキオは肘を抱え、自分の頬を撫でた。
「一応見てみるけど、ドワーフ製なら細かい部分も多いだろうから、ちゃんとドワーフに頼んだ方がいいかも知れねえぞ」
「ドワーフは嫌いだ」
ティーカップはそっぽを向いた。
「嫌いっつったって…。んじゃ、そん時は俺が頼んでやるから」
「それならいい」
ティーカップは脚と腕を組んで、澄ました顔をしている。まるで他人事のようだ。
その横顔を眺めながら「しょうがねえな」と呟くトキオの頬は緩んでいる。
マイペースな男は苦手だったはずなのに、ティーカップのペースに振り回されるのは心地いい。
-好きっつうのは楽しいなぁ。
改めてそんなことを感じていると、音楽が小気味良く大きく跳ねて、落ち、止まった。
踊りの輪から離れて休憩する者、その場に立って次の曲を待つ者。
ほんの数十秒の間をおいて優雅な旋律が流れ始めると、ティーカップが立ち上がった。
-踊んのかな?
トキオは、人の間を縫うように歩いていくティーカップを目で追う。
明らかに目標が決まっているらしき足取りは、エルフの女性の前で止まった。
長く美しい緑の髪と、細い体を包む清楚で柔らかいドレス。
背はティーカップの胸の高さほどで、エルフの女性にしては長身かも知れない。
なんとか表情のわかる距離だ。
女性はティーカップを見上げて微笑むと、はにかみながら頷いた。
その白い手に軽くキスをしたティーカップは、彼女の腰を抱いて場の中央へと誘う。
-慣れたもんだなぁ。
種族と育ちの違いをしみじみと感じながら、トキオは流れるように踊り始めたティーカップに見蕩れている。
「音楽によって種族の密度が変わるよね~」
顔を上げると、ヒメマルがいた。
「あ、こっち見なくていいよ~。ティーを見つめてて~」
ヒメマルは笑って、ティーカップの方を掌で指した。
「ん」
トキオは素直に視線を戻す。
「元気な曲がかかるとホビット、優雅な曲だったらエルフが増えるよね。ヒューマンはどんな曲にも混じってる」
「そうだな、わかりやすい」
トキオが同じことに気付いたのは、祭りにもすっかり慣れた15歳の頃だ。
「クラスと同じだよね~。ヒューマン以外は得意なクラスがあって、ヒューマンは得意なものはないけどオールマイティでしょ」
「…あ。ほんとだなぁ」
トキオは感心して頷いた。
「トキオは踊らないの?」
「苦手なんだよ」
「楽しいのに~」
トキオは笑いながら首と手を振った。
「ベルと一緒じゃないのか?」
「うんとねえ、このへんにいると思うんだけど」
ヒメマルはつま先立ちして辺りを見回す。
「いたいた!あれ、クロックも一緒だ」
トキオはヒメマルの見ている方向に目をやった。
視界が低くて見づらいものの、ブルーベルとクロックハンドが人ごみを掻き分けながら、こちらへ向かってきているのはわかった。
「イチジョウ以外揃っちまったな」
「だね~」
2人で笑っていると、
「イチジョウ以外みんな集合やな~」
到着するなり、クロックハンドも同じことを言った。