220.ワルツ

「ナンパしたんじゃねえ、パーティの仲間だよ」
トキオは小声で言い返した。
「お前、エルフは自己中だから絶対組まねえとか言ってなかったかー?」
デティが横から遠慮のない声量で言う。
「う、」
トキオはティーカップを見た。栗に熱中していて、こちらの話は聞いていないようだ。
「自己中とは言ってねえだろ、マイペースっぽいつったことはあるけど」
「一緒じゃん」
「違う!」
「別にいいじゃん」
デティは軽く流すと、簡単に周囲を見回した。
「パーティって5、6人だっけ?他の人は?」
「それぞれ好きにやってんだよ」
「ふーん…」
デティはトキオをじっと見て、次にティーカップを見、再びトキオを見た。
「まさか、付き合ってるとか言う?」
「…いや、まだ告ってねぇから…」
トキオが口篭もりながら言うと、
「えー!?」
デティは大きな声を出した。
「トキオがエルフ好」
トキオは勢いよく立ち上がって、デティの口を塞いだ。
掌の下でまだ何か言おうとしているデティに、額が当たるほど顔を近づけたトキオは、
「マジで好きなんだ。邪魔すんな」
押さえた声を噛み締めるように言った。
デティがこくこくと頷くと、トキオは手を離した。

「エルフをねぇ~~~…」
小さな声で呟いて、デティがアキラに視線を送る。
アキラは笑って、トキオに言った。
「ちょっと手強そうじゃないか」
「ん…まぁな」
トキオは頷いて、ティーカップの方を振り向いた。
いくつ目かわからない栗に爪を立てている-のはいいが、皮に食い込まずに爪の先がくにゃりと曲がっている。
「ぁあ待て、それ」
トキオは椅子に戻り、慌ててティーカップを止めた。
「たまに硬いのあるんだよ、無茶すんなよ」
そんなトキオの後姿を眺めて、アキラとデティは顔を見合わせた。
「んじゃな、トキオ。たまにはこっちの方にも顔出せよ」
アキラの声に、トキオは振り向いて手を上げた。
「ああ、またな!」
「頑張れよ~ん」
デティが茶化すように言うと、
「おう」
笑って応えて、トキオはティーカップの方へ向き直った。
*
「ワルツだ~。ベル、踊ろうよ」
広場から流れてくる三拍子のリズムに合わせて、ヒメマルはゆったりとステップを踏んでいる。
「俺、ダンスなんか出来ないよ」
ブルーベルは軽く腕を組んで首を振り、ヒメマルを見上げて笑った。
「エスコートするよ~」
ヒメマルはブルーベルの手を取り、腰を抱く。
「興味ない。女の子誘いなよ」
ブルーベルは空いている左手で、ヒメマルの胸をトン、と押した。
ヒメマルはめげずにブルーベルの腰に両手を添える。
「俺はベルと踊りたいんだよ~」
「やだって」
ブルーベルは笑顔のまま、そっけなく言う。
「こういう、思い出の作れる機会ってさぁ、存分に楽しまないと損じゃない?」
「思い出に浸る趣味ないから」
そう言ってヒメマルの腕から離れようとしたブルーベルを、ヒメマルは強く引き寄せた。
「ベル」
不意に真剣な声と眼差しをぶつけられて、ブルーベルは困惑した。
「…なに」
「一曲だけでいいから」
「…、…」
ヒメマルから目をそらしたブルーベルは、
「…知らないぞ。経験ないんだからな」
ぶっきらぼうに言って、肩の力を抜いた。

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