204.ミュージアム

出店を軽くひやかしながら、トキオとティーカップは中央広場に近づいていた。
「あ」
通りに建っている家のマーブルの壁を何気なく目にして、トキオは声をあげた。
「そういや、ミュージアムで服、色々見られんだ」
「この町にミュージアムがあるのか?」
「うん。カーニバルん時だけ、色んな店が寄り集まって出店してんだ」
「興味深いな」
「そこの広場入って右に出てちょっと歩くけど、前行った服屋より近いぜ。行くか?」
「行こう」
2人は広場へと歩みを進めた。

午前中ということもあって、まだ人はそれほど多くない。
「この広場は噴水周りでゆっくりモノ食えるから、食い物屋ばっか集まるんだ」
トキオの説明を聞いて、ティーカップは円形の広場を見回した。
手軽なお菓子を置いている店、食べやすいサイズのピザの店、果物を中心に置いている店、軽い酒を置いている店…確かに飲食物の店ばかりだ。
「そのわりに、散らかってないな」
「罰金取られるからな。ところどころに衛生管理員がいてよ、ちゃんと見てんだ。ほらあれ、腕章つけてるだろ」
トキオの指した先には、清潔感のある白い服に身を包み、左腕に青い腕章をつけた女性が立ち、辺りに目を配っている。
「なるほど」
「モメた時のために、衛兵もさりげなくあっちこっちにいるぜ」
「カーニバルの運営も簡単じゃないな」
「だよなぁ。-ん、こっちだ」
トキオは広場から出る道のひとつを指した。

出店のない道を少し歩くと、マーブル造りの大きな建物が見えてきた。
「あれがミュージアム」
「こんな建物があったのか…」
ティーカップは感心したように呟いている。
「遠目にあんましわかんない位置なんだよな」
大きな扉は開かれていて、様々なブティックのディスプレイが垣間見える。
「入ろうぜ」
トキオに促され、ティーカップはミュージアムに足を踏み入れた。

ホールに整然と(所により雑然と)展示されている大量の服に、2人は感嘆の溜息をついた。
客はそこそこいるものの、場所柄のためか、静かなものである。
「まあ、まずは、ぐるっと見るか」
「そうだな…」
言いながら、ティーカップは左手のブースへ歩き始めている。
-おしっ、ここ、正解!
トキオは自分の選択に心中でガッツポーズをとって、ティーカップの後をついて行った。

いくつか気になるものにチェックを入れながら、5つめのブースに入った時、
「ここの服はなかなか面白いな」
ティーカップが言った。
「ん…んん?ん?」
トキオは近くにあった服を手にして、正面から見て、後ろ側を見て、服の裾をチェックして、そこに入っている刺繍を見て声をあげた。
「へリオ・サイス!?」
トキオは近くの服をもう一着手にとって確認した。同じように刺繍が入っている。
「まじかよ」
ティーカップが腕を組む。
「有名なデザイナーなのか?」
「うん」
トキオは目を上げて、周囲の服を何度も見た。
「…」
ティーカップはそんなトキオをじっと見つめている。
「ん?なんだ??」
「君にこういう方面の知識があったことが非常に意外なので、驚いているところだよ。」
「ここの服好きだからな」
ティーカップの皮肉めいた言い草にも気づかず、トキオは展示してある服に再び目をやった。

「でも、こんなとこに店出すかなぁ」
「小売か転売じゃないのか?」
「確か小売業者は使わないし、転売にしちゃ…多すぎるような」
「偽物か?」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ」
後ろから笑みを含んだ声がした。

「みな本物だよ、ここは私が出しているブースだ。安心して見て行ってくれ」
声の主は、中性的な-というより性別のわからない、華奢なエルフだった。
振り向いたトキオに向かって右手を差し出して、彼(?)は笑顔を浮かべた。
「へリオ・サイスだ」
「あ…わっ、ども…へリオさんご本人っす…、…あれ?」
握手しながら、相手の顔に既視感をおぼえて、トキオは首を傾げた。
「どうも。腕のいい盗賊に気に入ってもらえて嬉しいよ」

Back Next
entrance