202.勉強

イチジョウ達と別れたヒメマルとブルーベルは、宿に戻ってシャワーを浴びた。

「夕食、何食べる?」
タオルで頭を拭きながら、バスローブ姿のブルーベルが言った。
「…うーん」
先にシャワーを浴びてパジャマに着替え、ベッドに腰かけていたヒメマルは、生返事をした。
「まだ減ってない?」
「…かな…」
「はっきりしろよ」
ブルーベルはヒメマルの隣に座った。
「…ベルってさぁ」
「ん?」
「ほんとは面食いなんじゃない?」
「なんだよ急に」
「ハリコンを間近で見て思ったんだけどさ」
ヒメマルはベッドに両手をついて、身体を支えた。
「彼は、なんていうの?かっこいいっていうか…整ってるじゃない、美的に」
「うん」
「ベルは、セックスしたいのは不気味な怪物だけど、ほんとの好みはハリコンみたいな綺麗な魔物なんじゃないかなーって思うんだよね。どう?」
「…んー…」
ブルーベルは手慰みにタオルをいじりながら、宙に目をやって考えをめぐらせている。
「んじゃ、意思疎通の出来る不気味な怪物と、セックスが凄くいい綺麗な魔物がいたら、どっちがいい?」
「なんだよその究極の選択」
ブルーベルは笑ってから、すぐに答えた。
「両方試してみてから決める」
「だよね~」
ヒメマルも笑う。
「まあ、何にしたってハリコンは射程範囲外だけどな」
「なんで?」
「下半身が空気だったから」
「あ~」
ヒメマルは深く納得した。

「それよりさ」
ブルーベルはヒメマルの方へ身体を捻った。
「召喚魔法ってやっぱりすごいし、面白い。俺、絶対使いこなせるようになる」
「ベルなら出来るね」
ヒメマルは笑顔で即答して、頷いた。
「でも、ああいう尊大なタイプはあんまり喚ばないで欲しいなあ」
「召喚で出てくるような連中は、大体尊大だよ」
「そうだと思うけど~。あのハリコン、俺にすごいプレッシャーかけてきてたんだよ?」
「なに、どんな風に?俺に聞こえない言葉で何か言ってたのか?」
ブルーベルは好奇心に目を輝かせて、ヒメマルを見つめた。
「言葉じゃないんだけど」
ヒメマルは自分の太股の上に両手を乗せ、指を開いた。

「なんだか、何かに包まれたみたいに息苦しくなってきてさ。侮辱とか侮蔑とかさ…そういう、俺を馬鹿にする感情みたいなのが、肌の表面から毛穴を通ってじわじわ染み込んでくる感じだった」
ヒメマルは指を弛緩させて顔を上げ、溜息をついた。
「すっごく嫌な気分だったよ」
「…それで、あんな汗かいてたのか」
「うん」
「俺は…圧倒はされたけど、そういう感じはなかったな」
折り曲げた指を唇に当て、ブルーベルが状況を思い出しながら言う。
「きっと、俺のことが気に食わなかったんだよ」
ヒメマルは手を軽く振った。
「姿形で威圧するだけじゃないんだな…」
ブルーベルは小さく頷いている。
「んんーーー」
ヒメマルは大きく伸びをして、ベッドに仰向けに倒れた。

「俺も何か、勉強しようかなあ。ベルを見てたら何かやりたくなってきたよ」
「俺と違う方面の知識、増やしてくれよ」
ブルーベルはベッドの上に上がり、ヒメマルの上半身の隣に座った。
「2人で色んなこと出来るようになろう」
「そうだね~、って、ベル、」
ブルーベルの指は、ヒメマルのパジャマのボタンをはずし始めている。
「ダメだよ~、疲れてるし、気分があんまり、うひゃっ」
はだけたヒメマルの胸に軽く爪を走らせてから、ブルーベルは首に巻いたタオルに手をかけた。
「しないよ、髪乾いてないから」
「…しないの?」
「疲れてるんだろ」
ブルーベルは髪を拭きながら、わざとらしく突き放した言い方をする。
「疲れてなくなってきたよ~」
「何言ってんだかわからない」
「ベル~」
「知らない」
ブルーベルの髪が乾くまで、こんなやりとりは続いた。

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