199.対話

『//*****+*+**.****,+**+*****-*』

呼び出された悪魔、「ハリコン」はブルーベルに何かを問いかけているようだ。
耳慣れない音色の言葉にブルーベルが困惑していると、
「強気にいこう」
後ろからヒメマルが囁いた。
「…」
数秒考えてから頷いたブルーベルは、
「人に喚ばれたからには人の言葉で話せ」
ハリコンを包む風の音を突き抜くような声で言った。

『.........**+*+*/***.*/**』

「それとも、人の言葉がわからないのか?」

ブルーベルが煽るように言った瞬間、ハリコンの周囲に渦巻いていた風が彼の足下へ集まり、

ドン

という音と共に垂直に吹き上げた。

一切の風が止み、部屋は静寂に包まれた。

『-気ぜわしい童よ』

ハリコンの声は部屋のあちこちから聞こえる。

『何用か』

「…」
ブルーベルは表情を変えずにハリコンを見上げていたが、内心は動転寸前だった。
もとより用などない。姿を見たかっただけだ。

「…この迷宮で貴殿を喚べるものなのか、知りたかった」
素直にいくのが一番だと考え、ブルーベルは両腕を広げて言った。
「なぜなら、この迷宮では貴殿のような高貴な悪魔を見ないからだ」
ハリコンは首を上げ、ブルーベルを見下ろしながら空洞のような目を細めた。

『-迷宮の性質は』

ハリコンは、甲冑で出来ているかのような長い指先をゆるりと開きながら言った。

『主の趣向に偏るものだ』

「ならこの迷宮の主は趣味が悪い」

ブルーベルが言うと、ハリコンは首を横に少しだけ動かし、肩を大きく何度も揺らした。
体の周りに再び沸き起こった風が、轟々と鳴る。

「あれ、笑ってるんですかね」
固唾を飲んでやりとりを見ていたイチジョウは、ササハラに囁いた。
ササハラも顔を寄せて囁き返す。
「世辞に弱いん…」
「しぃーっ」

「貴殿と戦わなくていいという意味では、その趣味の悪さに感謝したい」
ブルーベルは笑顔で心にもないことを言った。
この迷宮をうろついていてくれれば、手間隙かけて召喚する必要はなかった。

ハリコンは再び肩を揺らした。

「喚べるとわかれば、他に用はない。還ってくれていい」
ブルーベルが言うとハリコンは笑うのを止めた。周囲の風がぴたりと止まる。

『-気ぜわしい童よ』

ハリコンはそう言って両腕をゆっくりと振り上げた。


『亦逢おう』

言葉と同時に腕が左右に振り下ろされ、


バシュン

という音と共にハリコンの姿が掻き消えた。


完全に空気が平穏を取り戻すと、ブルーベルは脱力して背のヒメマルに身体を預けた。
イチジョウ達が走り寄って来る。
「お疲れ様です、すごかったですね」
オスカーはかなり興奮しているようだ。
「良いものを見せてもらいました」
ササハラもそう言って何度も頷いた。
「本当に…、っヒメマル君!?」
イチジョウは驚いて大きな声を出した。
ヒメマルの額からは汗が幾筋も流れ、濡れた前髪は束になって頬に張り付いている。
「大丈夫ですか!?」
「…だいじょぶ、ちょっと…真正面から見てたら、すっごいプレッシャーがね~、あははぁ」
ヒメマルは左腕でブルーベルを支えたまま、右の袖でびっしょりと濡れた額をぬぐった。

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