191.ストイック
「予想外の成果でしたね」ササハラとイチジョウは、今日稼いだ宝石混じりの金貨の山を間にはさんであぐらをかき、対面でルームサービスのパスタを食べていた。
「全く、オスカーさまさまですよ」
今日持ち帰った死の指輪は6つ。一日にして実に150万GP強の稼ぎになった。
「この調子でいけば4、5日で目標が達成できますね」
ササハラが笑顔で言うのに、イチジョウは頷いた。
「しかしさすがに、オスカーには何かお礼をした方がいいような気がしますね」
「そうですね。単純に金貨の一部でもいいでしょうが…」
言いながらササハラはパスタと一緒に注文してあった海老のフリッターを口にして、変な顔になった。
「衣ばっかり…ですか?」
「…」
ササハラは頷いて、口に入れたぶんを仕方なく食べてから、残りを皿に置いて衣を剥がしはじめた。
「剥かないと身体に悪いです」
「七割方が衣ですね…あ~、これは随分かわいいエビちゃんだな~」
「これだけ衣をつけられるのも一種の技術ですね」
ササハラは寝袋のようにもったりした衣を残し、貧弱なエビを口にした。
「お昼が美味しかっただけに、何か悲しいものがありますね」
「…あの…、明日もあそこで食べませんか」
遠慮がちに訊くササハラに、イチジョウは笑顔を返した。
「もちろん構わないですよ」
「良かった」
ササハラは照れ混じりに笑うと、イカのフリッターを解体しはじめた。
*
「なんや自分、ディオスも使えへんのかいな!?」ミカヅキの部屋とは別に取ったエコノミーの一室で、シャワーを浴びてひと息ついたクロックハンドは、同じくシャワーを浴び終えてベッドに座っているシキにそう言った。
「だって俺、ほとんど潜ったことないし」
シキは悪びれもせずに答える。
「しんどいしんどい言うても全然回復呪文使わんから、使える回数少ないんやろとは思うてたけど…まさか一回も使えへんとはなあ。余ったら俺も回復してもらお思うてたんやけどなぁ」
クロックハンドは髪が乾いたのを確認して、腰に巻いていたバスタオルを放り投げた。
「…、」
一糸まとわぬクロックハンドを、シキが上から下まで観察する。
「結構逞しいのな」
「まぁ忍者やからな。ほら、寝るで」
シキの腰を軽く叩いて立たせると、クロックハンドはベッドにもぐりこんだ。
「俺も裸で寝ていいか?」
シキは羽織っていたバスローブの帯をほどきはじめた。
「ええよー」
クロックハンドは両腕を自分の頭の後ろに回している。
裸になったシキはクロックハンドの横に入り込むと、無防備な上半身をぺたぺたと触りはじめた。
「かなり筋肉ついてんだなー」
「自分は細すぎや」
「そうかあ?クロックは全然細くねえと思うけど。腕とかもかなり太いじゃん」
「…?ああ、いや、ちゃうちゃう。細い言うたんはお前のことや」
「…あ、そうだっけ」
クロックハンドの使う方言で"自分"が相手のことを指す言葉だというのは何度も聞かされているのだが、なかなか慣れない。
「俺はビショップだから細くたっていいんだよ」
シキはそう言って、またクロックハンドの身体を触りはじめた。
「クロックみたいなタイプとは、やったことないんだよな~」
「やらへんぞ」
「えっ?やらねえの!?」
シキは驚いて聞き返した。当然するつもりでいたらしい。
「友達とはやらん主義や」
クロックハンドは天井を向いたまま目を閉じた。虚勢ではなく、本当に興味がないということが横顔に見て取れる。
「マジかよぉ」
あてがはずれたシキは、拗ねるような声を出した。
「んな固いこと言うなよー。友達から恋人になるきっかけになるかも知れないぜ?」
「恋人になってからやるんやったらええけど、なしくずし的にやってもうたせいで関係が変わるっちゅうんは好きやない」
「…」
シキはクロックハンドの横顔を見つめて、肩で一度、深呼吸した。
「…意外とストイックなのな。二股かけてたぐらいだから、もっと遊び人なんだと思ってたぜ」
「残念やったな」
そっけないクロックハンドの返事に、シキは笑みを漏らした。
「なんか、マジで惚れちゃいそーだ」
「何言うとんねん」
「へへへ」
シキはクロックハンドの腰に腕を回し、胸元に頭を寄せた。