184.溜息

ビアスの剣技は豪快だ。
叩き切るという表現がよく似合う。
比べられるほど数多くエルフのファイターを見てきたわけではないが、それでも、
-エルフらしくねえ…
というのがトキオの率直な感想だ。

ティーカップやスリィピーの技は、あくまで華麗である。
もちろん、そう見せようという意識-無意識かも知れないが-も働いているのだろうが、人間よりもやや非力なエルフが確実に敵を倒そうとした場合、結果として流麗な身のこなしが要求されるのだろう。

が、ビアスの戦い方は、人間の大柄なファイターのそれに近い。
それでいて大雑把というわけではなく、動きには全く無駄がない。
多くの場合、エルフの魅力は中性的な美しさに基づくものなのだが、戦いぶりを見るだけでも、ビアスが男性的な魅力も多分に持ち合わせていることがわかる。
-嫌んなるな…
何度目かの小さな溜息をついたトキオの肩を、ビアスが軽く叩いた。
「やってくれ」
長い親指が差した先にあるのは、宝箱だ。

高いブーツを穿いたビアスが近くに立つと、やや見下ろされるような状態になる。
トキオは足早に宝箱に近付いて、しゃがみこんだ。
-こういう気分の時は、くだらねえミスしやすいからな。落ち着いて…
深呼吸をしてから、仕掛けを探りにかかる。
最近はそれぞれの罠の特性も掴めてきて、素早く判断できるようになってきた。
「カルフォは?」
トキオは顔を上げた。
「爆弾だ」
ヘスが答える。
「だよな」
トキオは、爆弾の仕掛けを解除する為の道具を取り出した。
いざ取り掛かろうとした時、突然、正面にビアスがしゃがみこんだ。
「…んなとこにいると、爆発した時フタがブチ当たるぞ」
トキオが言うと、
「爆発させないでくれ」
ビアスは当然のようにそう言った。
-ティーカップみたいなこと言いやがって…
トキオは軽く唇を舐めてから、
「失敗しても責任なんか持たねえぞ」
罠の解除を開始した。

黙々と作業するトキオの手元を、ビアスはじっと見つめている。
「…やりづれえ。離れててくれ」
トキオは手を止めて、ビアスを追い払うように手を振った。
「見かけによらず神経質なんだな」
ビアスはしゃがんだまま、正面からトキオの顔を直視した。
眠そうな目つき、妙に高い位置に上がった眉。
ティーカップが憎まれ口を叩く時の表情にそっくりだ。
トキオは思い切り息を吸い込んで、特大級の溜息をついた。
「…まあな。だからどいてくれ」
ビアスは軽く肩をすくめてつまらなそうな顔をすると、立ち上がった。
*
「うっそだろ、ダブル振ったのかよ!?もぉったいねー!!」
シキはポテトをつまんだ指をちゅぱっと舐めてから、叫ぶように言った。
「何が気に食わなかったんだよ?」
「いや、気に食わんとかそういうわけやないんやけどな」
クロックハンドは食べ終わったポテトの船に爪楊枝を突き刺した。

シキが隣に座ったのはつい数分前だ。
元々人見知りが一切ない2人の会話は、簡単にかみ合った。
「んじゃ俺、ダブル狙いでいこっかなー。トキオはダメっぽいし…」
「トキオ狙っとったんか?」
「うん」
「あら無理やで、他の男にベタ惚れや」
「ティーカップだろ」
「知っとったんか」
「モロわかりじゃん」
「やっぱり傍から見とってもわかるかぁ」
「でもなー、トキオってほんと、すげえ好みなんだけどな~」
「どのへんが?」
「まず、でかいし…Eのわりにお人よしっぽいとことか」
「うははは、言えとるな」
「クロックはどんな男が好きなんだよ?」
「んー、俺はなぁ。最近ようわからんのやなー…」

それから数分、好みと理想について語り合った2人は、午後からの行動を共にすることに決めた。

Back Next
entrance