177.求人

「街の雰囲気が違うな」
朝、一番最後にテーブルに着いたティーカップがそう言った。
「そうですよね、人が多いというか…見慣れない服装の人も結構いましたね」
イチジョウも相槌を打つ。
「他の街からも結構集まってくるからな」
地元民のトキオが言った。
「屋台の準備みたいなもんもはじまっとったね」
クロックハンドが、口に入れた大量のピーナッツをモリモリと噛み砕きながら言う。
「さすがお祭り前日だよねえ、ワクワクするなぁ~」
ヒメマルは落ち着きなく辺りを見回している。
まだ朝だが、彼の中では既に前夜祭が始まっているらしい。
「マジックアイテムの出店みたいなものもある?」
ブルーベルがトキオに訊いた。
「その手の店は結構あるぜ、半分ぐらいインチキだけど」
トキオは笑って答えた。
「古本売ってる店もあるから、その手の掘り出しもん探すのもいいかもな」
「そうか…」
ブルーベルは両肘をつき、掌で顔を支えるポーズで宙を眺めた。
期間中、潜るべきか、祭りで物色するべきかを考えているのだろう。

「そんじゃ、そろそろ行くか」
「あっ、ちょっとお知らせしておきたいことが…」
イチジョウが、立ち上がろうとするトキオをおしとどめた。
「なんだ?」
「効率よくお金を稼ぐために、昨日計画を立てたんです。皆さんにも了解していただかないといけないので…」
イチジョウは、ササハラと考え出した計画-<死の指輪作戦>について語りはじめた。

「ベル君がひどい目にあった死の指輪、あれがひとつ25万GPの代物じゃないですか。あれをとことん集めようという話になりましてね」
「なーる」
いち早くクロックハンドが頷く。
「あれやったら配備センターのモンスター倒せば手に入るもんな。10階で出るや出んやわからん高級品に当たるの待つよりずっと効率的やわ」
「そうなんだ?」
その時の探索に参加していなかったヒメマルが、ブルーベルに訊く。
「みたいだな」
「2人で潜るのか?」
ティーカップが微かに眉をひそめる。
「いえ、さすがにそれは。死の指輪はあの通り持っているだけで体力を奪っていくアイテムですし、ササハラ君はディアルマまでしか使えません。それに、いくらムラマサがあるといっても、配備センターの守衛を侮るのは危険だと思ってます」
イチジョウの答えを聞いて、ティーカップは頷いた。

「だからといって人数を増やすと取り分が減ってしまいますから、1人だけ雇うことにしました」
「え、雇うの?このパーティから連れて行ったらいいのに」
ヒメマルが不思議そうな顔をする。
「出来ればそうしたいんですが、それでもやっぱり分配は必要になりますから」
「んん?ほな、雇う人には分配せえへんの?」
クロックハンドもアヒル顔になった。
「駄目元で、こういう求人用紙を貼ってみたんですが…」
イチジョウがテーブルの上に置いた紙には、

訳有り求人

些少の分配で協力してくださる
慈愛に満ちた方募集(G歓迎)

当方、僧侶呪文取得のサムライ二名(E)

応募者を含め三名で4階の探索を予定

希望職種
全呪文を使えるロード
(聖なる鎧装備ならなお良)

…と、あつかましいにもほどがある文字が並べられていた。

「これに応じる奴はいないだろ…」
ブルーベルが思わず呟く。
「それが、見つかりましてねえ」
イチジョウが、わざとらしく神妙な顔になって腕を組んだ。
「マジかよ!?」
「やっぱりG?」
「ええ」
「そんな馬鹿はGしかいないだろう」
ブルーベルとティーカップが声を揃えて言う。
「簡単に事情を話したんですが、快く承諾してくれました。分配は一切いらないそうです。困った時はお互い様だとか…いやー、Gって素晴らしいですねえ、ほんと」
またもブルーベルとティーカップが揃って肩を竦め、苦虫を噛み潰したような顔をした。

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