176.代わり
今日はビオラが休みで、代わりに燃えるような赤い髪の肉感的な女魔術師が後衛に入った。名はドーナといい、ロイドの知り合いらしい。
年齢は不詳だが、トキオの実年齢より上なのは間違いなさそうだ。
簡単な自己紹介の後トキオを値踏みするように眺めていたドーナは、横からグラスに
「彼はゲイだぞ」
と説明されて、
「まぁたぁ~?あんたが集めるいい男はみぃんなそうなんだよねぇ」
落胆の声を出すと共に、トキオの胸板を指先で軽くつついた。
「女はまるでダメなの?」
「ダメっていうか、…まあ、うん」
トキオがやや気圧されながら答えると、
「可愛いのにねぇ~」
ドーナはしなやかな指で、トキオの両頬を挟むように撫でまわした。
「ど ども…」
ブルーベルが含み笑いしながら、動揺するトキオを眺めている。
「女に興味が湧いたら、私に声かけてちょうだいよ?」
「あ…は はい…」
「あまり困らせるな」
ロイドが呟くような声で言う。
「わかってるわよ」
ふくよかな唇を尖らせてからウィンクすると、ドーナはトキオから離れた。
*
迷宮に降りて10階の回廊を進みはじめると、トキオはブルーベルに耳打ちした。「ティーカップがな、俺とつきあってるってことにしていいって言ってくれたんだけどよ」
「へえ?」
ブルーベルは興味深げに笑顔を向けてきた。
「あいつって、好きでもない奴とのそういう噂流されて平気な方なのか?」
トキオの顔は真剣だ。
ブルーベルは思い出すように宙を眺めた。
「…どうだろ…。一緒にいた頃って、俺ほんとにガキだったからな。よくわかんないよ」
「そうか…」
トキオは顎に手をあてて、思案顔になった。
「カーニバルも一緒に行くんだろ?一応進展してるんだ?」
トキオの表情を窺うような上目づかいで、ブルーベルが言う。
「ん、まぁ…、でもビアスとも行くかも知れねえしな…」
「ビアスは行動的な人だからな」
「う…」
「いっそカーニバルで告白しちゃったら」
「カッ」
トキオが言いかけたのと同時に、
「行くぞ」
グラスが扉を開けた。
*
その後パーティはいつもの調子でどんどん回廊と玄室を進み、会話をする余裕は全くなかった。地上へ出て、ダブルの代わりにやってきた盗賊と交代すると、トキオは宿に戻った。
シャワーを浴びて髪を軽く乾かし、新しいタオルを首にかけてベッドに転がる。
-カーニバルで告白かー…
トキオは天井とにらめっこしながら、頭の下に両腕をまわした。
-雰囲気次第でそれもアリかな…
忍者になってから…などという悠長な予定は捨てて、どことなくいい感じになっている(ような気がする)今のうちに告白してしまった方がいいかも知れない。
-でもなあ、いけるような気がしてる状態でコクってふられたら辛いよな~
長年培われた後ろ向きの姿勢は、なかなか克服できるものではないようだ。
-あ、でも今フラれりゃあ、ダブルと一緒にパーッとヤケ酒飲んで、ダメージ軽く出来るかも知れねえな…
トキオは前髪をかきあげた。
代理の盗賊によると、自分で立てないほど泥酔したダブルは、友人達に宿まで運ばれていったらしい。さらりと受け入れているように見えたが、内心の傷は深かったのだろう。
-クロックがダブル振ったほんとの理由は、なんだったんだろうなぁ。
ダブルは、トキオから見れば全く非の打ち所のない男である。
-マジで、でかすぎるからだったりして。
トキオは自分の股間に手をあてた。
実際、何人かの遊び相手に敬遠されたことがあるだけに、笑うに笑えないところがある。
…何人かには大歓迎されたのだが。
-でも、ダメならダメで別に無理にすることもないし、手とか口とかでもなー、…
ついリアルに想像してしまって、トキオは股間を押さえたまま丸くなった。