173.キープ

「なんでさあー、一番いい案じゃない」
当然ヒメマルは引かない。
「…なんでって…」
トキオは口篭った。この場を切り抜けるのに適当な理由が見つからない。
「そんじゃ多数決取ろ、はい3日全部休みがいい人~」
トキオ以外の全員が手を挙げた。
「決まりーっ!」
ヒメマルは満面の笑顔でバンザイしている。
トキオは片肘をついて小さな溜息をついた。
「じゃあそういうことにして、そろそろ行きましょうか?」
イチジョウが立ち上がったので、他のメンバーも荷物を持った。

トキオはティーカップの横に急いで並ぶと、
「どうする?なんなら3日とも案内するぜ、3日とも出店とか催しもんとか違うから」
と話しかけた。
3日とも押さえてしまえば何も心配はない。
「一番盛り上がる日はいつだ?」
「そりゃやっぱ、最終日かな」
「ならその日だけでいい」
「…そ、か」
トキオはほんの少し肩を落とした。
最終日をキープできただけでも良しとするべきかも知れない。

「どういうタイプのもんが好きだ?店とか、イベントとか」
気を取り直したトキオは、質問を開始した。
「面白いものだ」
…大雑把すぎる。
「パレードとか好きか?」
「悪くないな」
「食ってみたいものとかあるか?」
「祭りならではのものだな」
「広場で舞踏大会とかもあんだけど」
「トキオ君」
ティーカップはトキオに視線をぶつけた。
「前もって色々と聞かされたら、当日の楽しみがなくなるじゃないか」
「…あ…そうだな…、」
トキオは唇を舐めた。
「でもな、目標決めてピンポイントで攻めてかねえと見逃しちまうもんもあんだ。どうせならお前が好きなとこ狙って行きたいと思ってよ」
ティーカップは2秒ほどトキオを見つめ、
「…ま、ガイドとしてはいい心がけだな」
そう言って軽く頷いた。
「でも僕は、よほど不味いものを食べさせられたり、よほどつまらないものを見せられでもしない限りは平気だ。君の好きなように案内してくれたまえ」
"よほど"のレベルがどの程度かわからないのが不安だが、大ハズレを引かない自信はある。
「…、よし。わかった」
トキオは大きく頷いた。

-なんや、この2人一緒に祭り行くんかいな。なんやかんや言いながら、うまいことやっとるやんか。
なんの気なしに2人の会話を聞いていたクロックハンドは、頭の後ろで指を組みながら、
「俺はナンパでもしようかなぁ~」
と呟いた。
「積極的ですね」
イチジョウが笑う。
「色んな人に出会うチャンスやからねー」
「ですねえ。私もお金の問題がなければ遊びまわりたいですよ」
「あれ、イチジョウて結構浮気もんなん?」
「お遊びは公認ですから」
「余裕やなぁ、ササハラっち」
「余裕ですねえ」
イチジョウはまた笑った。

「一日はつきあうけど、あとは1人でまわれよ」
ブルーベルはヒメマルに釘をさしている。
「ええ~、せめて2日ぐらいさぁ」
「駄目だ」
「ちぇ~」
「ヒメマルがもう潜らないって言うんならつきあってやってもいいけど」
「んじゃもう潜らないっ!」
「カーニバル終わったら、やっぱり潜るって言うんだろ?」
「ばれてる~」
「諦めて1人でうろつけよ、ガキじゃないんだから」

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