172.1or3

集合時間5分前。
「ねえねえ、カーニバルの間は休みにしない?」
トキオがテーブルにつくなり、待ちかねたようにヒメマルが言った。どこからか情報を仕入れたらしい。

「三日全部か?」
「うん!」
「ん~、一日は休みにしようと思ってたけどなぁ…」
「一日でいいと思うけど」
ブルーベルが横からそっけなく言う。
「なんでえ、楽しもうよ~」
「俺は誰かさんのために早くカドルト覚えないといけないから。サボってらんないんだよ」
「えぇ~、ちょっとぐらいいいじゃない。ねえ?」
ヒメマルは、隣のイチジョウに同意を求めた。
「私も稼がないといけないんで…。転移の魔方陣を使うのに大金がいるんですよ」
「いくらぐらい?」
「500万Gです」
「高ーーーい!!」
「えらくふっかけんだな。それでどんくらい遠くまで行けるんだ?」
トキオが訊く。
「海を越えられるそうです」
「まじかよ!?すげえな」
「海も越えるのか…」
ブルーベルが呟いて考え込んだ。魔方陣に利用されている術の系統を推測しているようだ。
ヒメマルは困り顔で周囲を見回して、こちらに歩いてきたクロックハンドを見つけると手を振った。

「クロックも、カーニバルは休みたいよねー!」
「カーニバルて?」
クロックハンドはアヒル顔で座った。
「明後日から、3日間ぶっとおしのカーニバルがあんだよ」
昨日、早速開催日程を調べたトキオが答える。
「そら楽しそうやなぁ」
「俺は3日全部休みにしようって言ってるんだけど、みんな一日でいいって言うんだよ~」
「君はなんで3日全部休みたいんだ?」
いつの間にか現れたティーカップが、椅子を引きながら言った。
「だってカーニバルだよ~!?外で楽しいお祭りやってるのに、いつもと同じように地下に潜って怪物とデートなんてさー、もったいないよ~!!」
ヒメマルはいつになく力説している。よほどカーニバルが楽しみらしい。

「俺はどっちでもええけどなぁ」
クロックハンドが言った。
「そうだっ、クロックはダブルとミカヅキ両方とデートするでしょ?やっぱせめて2日は欲しいよねーっ」
「せえへんよ」
「え?」
「昨日の夜、どっちとも別れてん」
「うそおっ!?」
ヒメマルは、まさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
「もったいね~…」
トキオの口から、思わずそんな言葉が漏れる。
「まあ俺も、ちょっと頭冷やしたいな~と思うてね」
「…ミカヅキ、納得したか?」
「わからん。何日か帰れんとかいう置き手紙があったから、俺も別れるて置き手紙してきた」
-それでミカヅキが諦めるとは思えない…。
その場にいた全員が同じ感想を抱いた。

「休みが一日でいいという側の意見は?」
ティーカップがメンバーを見回した。
「私はお金を稼ぎたいんです」
「俺は経験を積みたいんです」
「俺も経験、だな」
表向きはそう言ったものの、トキオには休みたくない理由が他にもあった。
ミカヅキとダブルの両方とデート…というくだりで気付いたのだが、3日休んでしまうと、ティーカップがビアスともカーニバルに出かけるかも知れない。
それは避けたい。
こんなことを考える自分は男としてどうかと思う。のだが、嫌なものは嫌である。
こういう時、トキオは己に正直だ。

「それなら3日間休みにしてもいいんじゃないか?稼ぎたい者は、適当に臨時パーティを見繕って潜ればいい。どうせ他のパーティも似たりよったりな状況になっていて、組みやすいだろう」
ティーカップが、トキオの思惑を蹴飛ばすような提案をした。
「それいいー!」
「よかねえ!」
電光石火でトキオに否定されて、ヒメマルの眉はハの字になった。

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