165.冗談と嘘

ギルガメッシュまで戻り、テーブルについたパーティは、各々飲み物を注文した。

鎧を脱いだイチジョウが、大きな穴の空いた部分を見て目を丸くしている。
ティーカップは、開いた掌をヒメマルの前につき出した。
「サーベルを返してくれ」
「えっ、ティーはこれからカシナート使うんじゃないの?不意打ちされたら交換してるヒマないと思うよ~」
「そうだぞ」
ヒメマルの言葉に、トキオも頷く。
「もちろんカシナートは装備する。サーベルは持っておきたいだけだ」
ティーカップは平然とそう言った。
「えーと、じゃあ俺は何を装備するの…?」
「切り裂きの剣か何か、適当なものを買えばいいだろう」
「そんな~」
ヒメマルが眉をハの字にしていると、
「いいじゃないか、ヒメマルの攻撃当たらないんだから。何持ってても一緒だろ」
横でアイテムの識別をしているブルーベルが、呟いた。
「ひどい~ベルまで~」
ヒメマルは自分の頬を両手で押さえて、顔を中央に圧縮している。
「さあ、渡したまえ」
催促されて、ヒメマルは情けない顔のまま腰のサーベルをはずし始めた。

「うわー、着物がごっつぅ血ぃ吸ってるわ。ちょっと痕残っとるで」
クロックハンドが、ボロボロになったイチジョウの着物の背中部分をめくりながら言った。
「これから先、グレーターデーモンに遭ったらどうします?」
イチジョウは背中をクロックハンドに好きなように触らせながら腕を組んで、トキオを見た。
「そうだなぁ…2匹相手でも総力戦って感じだからな」
「まだ早い相手かもね~」
丸腰のヒメマルが言った。
「闘い甲斐はあるがな」
ティーカップは自分のザックにサーベルを差し込んだ。柄の部分が顔を出している。
「…それ、かついで潜んのか?」
トキオが言うと、
「馬鹿なことを言うな」
ティーカップは眉を寄せた。
「だよな」
「腰に差す」
「カシナートと一緒に?」
「そうだ」
「邪魔だろ!?」
「冗談だ」
ティーカップはすました顔で言って、運ばれてきたビールに口をつけた。
小さく唇を尖らせてから、トキオも自分のジョッキを引き寄せる。

「わかった」
ブルーベルが識別していたアイテムをテーブルの真中に置いた。
「なんやったん?」
クロックハンドが興味深げにアイテムを観察している。
「まず、こっちがドラゴンスレイヤー
ブルーベルはオレンジジュースに口をつけたままで、一風変わった武器を指差した。
「へーっ、なんか強そうじゃない」
ヒメマルが、揃えた指を自分の唇にあてる。
「名前の通り竜に強い。攻撃力を減少させるし、こっちが与えるダメージは通常の倍になる」
「すごいじゃない。俺、これ装備するよ。いいでしょ?」
ヒメマルは前衛にお伺いを立てるように見回してから、嬉々としてドラゴンスレイヤーを掴んだ。
「…ドラゴン以外にはあんまり効果ないけどね」
ブルーベルがつけ加える。
「そうなの!?」
「どうせ当たらないんだから、いいだろ」
「またそれを言う~」
ヒメマルがめげている横から両腕を伸ばしたクロックハンドが、もうひとつのアイテムを持ち上げた。
「なあなあ、こっちは何?」
兜らしきそれをクロックハンドが半分くらいかぶったところで、ブルーベルが言った。
「呪いの兜」
「はよ言わんかい!!」
クロックハンドが兜を地面に叩きつけると、ベルはけらけらと笑った。
「うそ、忍耐の兜だよ」
「なーんや、…って壊れてもうたがな!」
拾い上げた兜のフェイスガードの留め金が外れて、プラプラしている。
「あー、これは…直りますかねえ」
イチジョウが横から覗きこむ。
「ボルタック行って修理頼んでみるわあ。イチジョウも鎧直しに行かなあかんやろ」
「あ、そうでした」

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