156.毎晩

パーティが解散した後、夜のパーティが出発するまでにはまだ充分時間があったので、トキオはティーカップを夕食に誘ってみた-のだが、
「…悪いな、用事がある」
断られてしまった。
それでも答えるまでに間があったのは、時間が合うようなら一緒に食べようと思った、ということだ。
…と前向きに考えておいて、1人でテーブルについたトキオは、ウェイターを呼んで夕食を注文しはじめた。
「おう、俺はビールとピラフ大盛り、あと唐揚げと野菜炒め頼む!」
ウェイターとトキオの間に割り込んできたのは、ダブルだ。
「1人なんだろ、一緒に食おうぜ」
ダブルはトキオの隣にどかっと腰掛けた。

「で、どんな調子だ?」
先に運ばれてきたビールをひと口飲んで、ダブルがトキオに言った。
「何が?」
「そりゃあ、ほれ」
ダブルは掌の指をまっすぐ伸ばして、両耳にあてた。
エルフの耳のつもりらしい。
「んー…。心構えは出来た、な。ハラが決まったっつうか」
「おー、当たって砕ける気になったか」
「縁起でもねえこと言うなよな~」
笑いながら言い合っている所へ次々と夕食の皿が運ばれてきて、あっという間に6人がけのテーブルを埋め尽くしてしまった。

「ブルーベルから聞いたんだけどよ、グラスのパーティに参加してんのも、男ぶり上げてから告るためなんだってな?」
ダブルは唐揚げにかじりついた。
「…だ。」
トキオは少し照れながら頷くと、チャーハンにスプーンを入れた。
「なんか、そういうスイッチが入るようなことでもあったのかよ?」
「…ん…、」
トキオはスプーンを口に入れたままで3秒ほど考えてから、頷いた。
「聞かせろよ」
「…」
トキオは唇からスプーンを抜いて周囲を見回すと、ダブルに身体を近づけた。

「こないだの夜、嵐になったろ」
「ああ、すごかったな」
「あん時な…」
トキオは、2人で宿に向かう途中落雷に遭ってティーカップが気を失ったこと、そのまま連れて行った病院に泊まったことを話した。
ティーカップは雷が苦手らしい、ということには触れていない。
ティーカップのプライドと、自分だけが彼の苦手なものを知っているというささやかな喜びを守る為だ。

「そんじゃあ、同じベッドで寝たのかよ」
「うん。そんで…」
「やっちまったか?」
「馬ッ鹿、出来るわけねえだろ!」
「なんでやらねえんだよ、もろに据え膳じゃねえか。もったいねえ」
「マジで好きな奴、そんな抱き方したかねえよ」
トキオの言葉を聞いて、ダブルは口笛を吹いた。

「…いや…いや、だからな?」
赤くなったトキオは、話を本筋に戻しはじめた。
「最初は俺も、一緒に寝られんのが単純に嬉しかったんだけどよ。でもそのうち、こう…」
トキオは、指をわきわきと動かした。
「やりたくなってきた?」
「違うつってんだろ!…こう、なんつーか…気持ちよくってよ」
「ああ、その気じゃねえのに勃ってきたと」
「そーうーじゃーなくてよーーー。ほら、あのー…同じベッドに入って、ぴったりくっついてるとよ、それだけで気持ちいいだろ?」
「あー、そりゃな。わかる」
「な、そうだろ。そんで俺、思ったんだよ」
「何を」
「毎晩、こいつと、こんな風に、ぴったりくっついて、眠りてえなぁ。…って」
ダブルは、なんとも言えないニヤけ顔でトキオを見た。

「なんだよ」
「…それが、ハラ決めることにした理由か?」
「そうだよ」
「…」
ダブルはニヤニヤしている。
「なんなんだよ、気になるな」
「…メシ、早く食わねえと冷めちまうぞ」
「んーだよ、話そらしやがってー。言いたいことあんなら言えよなあ」
ぼやきながら、トキオは食事を再開した。

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