148.新入り
夕方、ブルーベルと待ち合わせしたトキオは、ギルガメッシュの端のテーブルに向かっていた。「ラッキーだったよ。俺が入れてもらってるパーティの忍者が抜けた」
「そんじゃ、ベルと同じパーティで潜れるってことか?」
全く知らないパーティにいきなり入るよりは、顔見知りがいる方がいい。
「代わりがもう決まっちゃってる」
「あ~。やっぱ、他のパーティに入れてもらわなきゃダメってことか」
「そうでもない。代わりに入った盗賊との交渉次第だと思うよ」
ブルーベルが親指でさした先には、ダブルがいた。
トキオが交渉したいと伝えると、ダブルはテーブルを離れてトキオを店の端へ連れて行った。
「一回潜って上がる、そんだけでいいから代わってくれ、頼む。上がってきたら交代するから」
トキオが手を合わせると、ダブルはニッと笑った。
「どうすっかなぁ~」
「頼むって、この通り」
「つってもなあ。ベテランが一回潜ると結構な稼ぎになるんだぜ。なんかと引き換えじゃなきゃなあ~」
「そうか、何がいい?あんま金ねえけど」
「お前さんのケツ一回…」
「ばっ」
トキオは、尻を押さえて喚いた。
「馬っ鹿言うんじゃねえよ、そんぐらいだったら他のパーティ探すよ!!」
ダブルはカラカラ笑った。
「ジョーダンだよ。ったく可愛い奴だな。俺だって本命がいんだ、んなこたしねえよ」
「んじゃ、何がいい?待たせるとわりぃし、早く決めねえと」
トキオはパーティの座るテーブルを見た。
ブルーベルだけがこちらを伺っていて、他の連中は雑談をしているようだ。
「何もいらねえよ」
ダブルは、急に真顔になって答えた。
「…え?」
「いらねえ。あのパーティとは、あんまり長い時間いたくねえんだ」
「なんでだ?」
トキオの深刻な顔を見て、ダブルは笑顔になった。
「いや、お前さんには関係ねえこった、安心しな。あのパーティのな…ほら、黒い奴がいるだろ」
トキオは、もう一度テーブルを見た。
グラスの横に、黒髪で黒ずくめの長身の男がいる。
「ああ…いるな」
「初対面からどうも目つきがおっかねえんで、変だとは思ってたんだけどよ。聞いたら獣人だってえじゃねえか」
「そうなのか?」
「らしいぜ。しかも狼人間ときた。おっかねえわけだぜ、俺ぁ狼が大の苦手なんだよ」
ダブルはバンダナごしに、存在しない左眼をさすった。
それが狼によって失われたということは、トキオにもすぐにわかった。
「だから一緒にいたくねえのか」
「ああ。でも、いっぺん入れてもらうっつったもんで、この人がおっかねえから抜けてえとは言い出しにくくてよ」
「そうか…」
「お前さんが来てくれて、助かった」
ダブルはトキオの頬をピタピタと叩いた。
「獣人が人間とパーティ組んでて、何も問題ねえのか?」
「俺も訊いてみたけど、満月の晩以外は全く問題ねえとさ」
「満月の晩はどうなっちまうんだ?」
「さあな」
ダブルとトキオは、話しながらテーブルに戻った。
「どうするんだ」
グラスに訊かれて、
「最初の一回はこいつが潜って、そっから後は俺が交代するってことにしたよ」
ダブルが答えた。
「よし。じゃあ、トキオにメンバーを紹介しておこうか。俺はグラス、ヒューマンのロードで、このパーティのリーダーだ」
グラスは自分を指差した。
「それから、ロイド。ライカンスロープのサムライだ。反射神経に優れたヒューマンと思ってくれればいい」
黒ずくめの男が、軽く頭を下げた。
ゆるいクセのある長い前髪の下に、丸メガネをかけている。
「横が、よく知ってるだろうが、ブルーベル。その横が魔術師のビオラ。ハーフエルフだ」
同じハーフエルフだからそう見えるのか、ブルーベルに似た-いや、ややブルーベルよりも女性的な体格とムードを持つビオラは、テーブルに置いているブルーベルの手に指をからめている。
ブルーベルは、さして気にしていないようだ。
「最後にロードのスリィピー、エルフだ」
頭を下げたのは、精悍な顔立ちに緑の髪を持つ、森のエルフだ。
「…と、一応紹介はしたが、俺とロイド以外はよく入れ代わる。最低限、ポジションとクラスだけ覚えてくれればいい」
グラスはそう言って笑うと、トキオの肩を抱いた。
「彼はトキオ、ヒューマンの盗賊だ。僧侶呪文が使える。そうだな?」
グラスは、トキオを紹介しながら確認した。
トキオが頷くと、メンバーは荷物をまとめはじめた。
グラスがトキオの肩を叩く。
「早速潜るぞ」