136.お約束

「踊ってるみたいだ」
ヒメマルの呟きに、トキオとブルーベルは無言で頷いた。

お気に入りの装備を纏って久々に前衛に出たティーカップの剣技は、(寝不足のトキオにとってはまさに)目が覚めるような華麗なものだった。
剣の軌跡、足の運び、僅かに遅れて体を追うマント。
襲いかかるモンスターの動きまでが、緻密に計算された殺陣のようだ。

断末魔の叫びをあげて、キメラが崩れるように倒れる。
片腰に手をあて、それを見下ろしているティーカップを、
-こいつって、こういう角度、絵になるんだよなあ―
ぼんやりと眺めていると、
「トキオ、トキオ。見とれてないで、宝箱」
横からヒメマルにつつかれた。

「ほんまに汚れてへんわ、すごいなあ」
ティーカップを前後左右からぐるりと観察したクロックが、感心している。

今日のティーカップの服装は、炎が舞い、腐肉が飛び散る最地下に潜るのに、およそ適しているとは言い難いものだった。
聖なる鎧とサーベルがなければ、まるで城の舞踏会に赴く王侯貴族のようである。
「そんないい服着て行くの!?」
ヒメマルなどは、ティーカップを見るなり素っ頓狂な声をあげてしまった。
「汚したくないと思うことで、回避への注意力が増す。精神面から防御力を底上げする、効果的な方法だ」
ティーカップは、満面の笑顔でそう言った。

仲間はティーカップの服について、雑談を続けている。
宝箱の罠を調べていたトキオは「よし」、と小さく呟いた。
カルフォの結果と同じく、プリーストブラスターだ。…と思う。

仕掛けをはずしにかかる。
ただでさえ下手糞なので、人一倍集中しなければならないのだが、寝不足のせいかすぐに余計なことを考えてしまう。

-やっぱ、まずは忍者になって、経験積んで、せめて肩並べるぐらいになんねえとはじまらねえな。今の状態じゃ色んな意味で貴族と庶民だよ。身分違いっつうか…
…いや、俺が忍者になっても貴族と庶民てのは変わらねえけどさ。
気持ちの問題だよ、気持ちの問題。


自分に説明をしながら、罠の仕掛けをいじる道具を取り替える。

-盗賊の短刀が見つかるまで、ガンガン経験積んで。
見つかったら忍者になって、またガンガン潜りまくって。


昨日ひと晩悩んだ挙句、結局「忍者になって、ある程度腕を上げたら告白する」という所に落ち着いたのだ。

-強くなりゃ、多分、自信も出る。
今色々考えても悪い方にしかいかねえのは、俺が盗賊だからだ。
しかも全然向いてないときてる-


カチ。

-これだもんなあ

バシュー
*
「お約束を守ろうっちゅう心意気は、エンターテイナーとして大変立派や。と言っておくわ」
テーブルにつくなりクロックは、5つのうち4つの罠をはずし損ねたトキオの肩を叩いた。
「このパーティの最大の敵は、目下のところ、君だ」
腕を組み、足を大きく広げてトキオの正面に座っているティーカップが、冷ややかな視線をよこした。
戦闘ではほとんど無傷だった彼のマントに穴をあけ、煤だらけにしたのは、トキオが解除しそこねた爆弾なのである。
さすがに今日はイチジョウもフォロー出来ないらしく、困ったように笑っている。

トキオは数秒考えて、
「最近マジで、クロックに任せた方がいいんじゃねえかと思う」
隣にふった。
「俺は別にかまへんよ」
クロックハンドが答えた瞬間、
「それは困る」
間髪入れず言ったのは、ティーカップだ。

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