135.散歩

眠れない。
午前1時を回ったところで、トキオは上着を羽織って外へ出た。

ギルガメッシュには、夜がない。
煌々と輝く店の入り口に立ってはみたものの、漏れ出る喧騒が気分転換にもってこい―とは思えなかった。

-そのへん適当にブラブラして、帰るか…

ふっと肩の力を抜いた時、店を出る人の中にササハラを見つけた。
背中には、酔いつぶれたのだろうか、ぐったりと脱力したミカヅキをおぶっている。

-なんだ、あの2人ってダチなのか?
にしてもミカヅキ、こんな時間まで飲んでたらクロックが
…あ、…もしかして、部屋に戻ってねえ、のか…


複雑な思いで2人の後ろ姿を見送ると、トキオは歩きはじめた。

店の並ぶ通りを少しはずれると、不意に静かになる。
トキオは、点々と続く淡い街灯の光を見上げながら、もやもやと落ち着かないでいる頭の中を整理することにした。

まず…探索に区切りがついたら、ティーカップが故郷に帰ってしまう、ということについて。
タイムリミットが設定されたことで、トキオの心には焦りが生まれている。
しかし、もっと大きな問題は、すっかり頭から抜けていた「断られた後で、顔を合わせ続けることの厳しさ」に気付いてしまったことだった。

当初は、忍者になって前衛に出られるぐらいになったら告白を…と思っていたのだが…
中途半端な時期に告白して断られた場合、それから先パーティメンバーとして毎日顔を合わせることは、トキオにとって拷問に近い。

そうなると、焦らずに、パーティ解散寸前に告白した方がいいということになるのだが、もたもたしているとビアスに先を越されそうな気がするのだ。
ティーカップにその気がなくても、ビアスにはよりを戻す気がある。
短時間の会話の中で、トキオはそれを強く感じていた。

-だから …いや…
あ~、もう、どうすりゃいいんだろうなあ。
これ、ちょっと保留…


トキオは、もうひとつの問題に頭を切りかえた。

ビアスが席を立つのと入れ違いにテーブルに戻ってきた、イチジョウの反応について、だ。

「何、話してたんだ?」
遠慮がちに訊いたトキオに対して、イチジョウは、
「え~、…まぁ、軽い相談みたいなもの…ですね」
目を泳がせて、作り笑いをしたのだ。
元々、いつでも笑っているように見える風貌ではあるのだが、トキオはイチジョウのそんな不自然な表情を見たのは初めてだった。

「…探索終わったら、故郷に帰る、って話、か?」
鼓動を抑えようと、言葉を噛むように出してみる。
「いえ?そうなんですか?」
イチジョウは、少し驚いたようだった。
「…、…じゃあ…」
続けようとすると、
「話せないこともある」
イチジョウは、トキオの言葉を短く切り落とした。
「彼は詮索されるのが好きじゃない」
笑顔に合わない低い声でそう言うと、イチジョウは足早に店を出てしまったのだ。

-あれは、全然わからねえ…

トキオは、街灯の下のベンチに、腰をおろした。

軽い相談。
詮索されたくない、干渉されたくないこと。
もしかすると、自分には全く関係のない話なのかも知れない。

両膝に肘をついて掌に顎を乗せると、トキオは溜息を漏らした。

-気にはなるけど、考えるだけ無駄かな…

となるとまた、告白のタイミングについて考えなければならない。

「あ~~~も~~~」

トキオはベンチに転がった。

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