125.交代要員

「遅いですね」
「何をやってるんだろうな」
「…」

テーブルに3人で残されてからというもの、ブルーベルはティーカップにしか話しかけないし、ティーカップには冷ややかな目で見つめられっぱなしで、ヒメマルは簡単な相槌を打つのすら申しわけないような気分になっていた。

-早く戻ってきてくれないかな~…

思い始めた頃に、やっと2人の姿が見えた。
*
「ミカヅキがクロック縛って閉じ込めちまっててよ。助けてきたけど、今日は寝不足で来れねえとさ」
トキオの大まかな報告を聞いて、ヒメマルが溜息をついた。

「なんか…同情するのも悪いような気がするけど…ミカヅキ、可哀想だよね」
「だよなぁ…」
トキオが力のない声で同意する。
「なんで君達は、そっちにばかり肩入れするんだ」
ティーカップが、不満をこめた視線をトキオとヒメマルに交互に流した。

「付き合ってる好きな男に堂々と二股かけられてんだぞ。ミカヅキの肩持っちまうの、当たり前じゃねえかよ」
トキオはやや憮然とした表情でそう返したが、
「惹きつけておけないミカヅキが悪い」
ブルーベルがソーダに添えられていたチェリーを咥えながら、当たり前のように言った。
「そりゃ、そうと言えばそうなんだけどよ、」
なんとかフォローを入れようとすると、
「望まない相手からの情の押し付けは、ただの迷惑だ」
今度はティーカップに切って落とされた。

数秒の沈黙があって、
「まあ、こういうことの考え方は人それぞれですよねえ。それで、どうしますか?今日はやめておきます?」
イチジョウが話題を変えると、
「出来るだけ稼ぎたいんだけどな」
ブルーベルが即答した。

「誰かに、代わりに入ってもらう?」
ヒメマルが控えめに言うと、トキオは考えこんだ。
「ダブル…は、ダメか。前衛が要るんだよな」
「あ、それならササハラ君に頼みましょうか。今日は体が空いてると言ってましたから」
イチジョウが提案すると、他の3人はそれぞれに賛成した。
「それ、いいじゃない」
「おう、全然知らない奴よりずっといいぜ」
「決まりだ」
ベルも頷いた。
「じゃ、呼んできます」
イチジョウは、さっと席を立った。
*
「ササハラと申す。宜しく」
席についたササハラは、軽く頭を下げた。
「えっと、俺がトキオ。一応リーダーでクラスは盗賊」
トキオが言って、ヒメマルに目線を送る。
「ロードのヒメマルで~す」
「ブルーベル。ビショップ。」
「僕はロードのティーカップだ。君とイチジョウは、どっちがどっちなんだ?」
「…、…お、お前、いきなりそれ」
一瞬置いて質問の意味を理解したトキオは、思わず慌てたが、
「主に、私が上で」
ササハラはさして動じずに、そう返した。

「君の歳は?」
ティーカップが、続けて訊く。
「25に」
「実年齢か?」
「転職での経年は数えない主義で」
「ふぅん…」
ティーカップは、ササハラを目を細めて見つめている。
トキオはそんなティーカップを、不思議な気分で眺めていた。

ティーカップが、交代に入った人物にこんな風に興味を示したのは初めてだ。
-…好み…とか?
確かに、いい男だと思うが―
考えがまとまる前に、
「それじゃ、行きましょうか」
イチジョウに促され、パーティは移動をはじめてしまった。

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