124.解放

「ほんまに、お恥ずかしい所ばっかりお見せしてまいましてぇ」
手足を大きく広げる形で、全裸でベッドに縛りつけられたクロックは、情けない声を出した。

「いや、まあ…」
トキオは極力、解いてやっている脚のいましめに意識を集中している。
素っ裸というだけならまだしも、クロックハンドの身体には、髪の先から足の先まで、いたる所に乾いた白い飛沫と小さな赤い痕が散っているのだ。

色々、想像してしまう。

イチジョウは腕の方の紐を解いている。
太くて柔らかい素材で出来ているそれはご丁寧に三つ編みにしてあり、腕と紐の輪の間には僅かに隙間すら(明らかに故意に)作られている。
拘束という最終手段を実行するほど追い詰められながら、なお、クロックハンドを傷つけまいとしている。
イチジョウは、ドアの近くで床に額をつけるようにして丸くうずくまっているミカヅキを見た。

「ふ~っはぁ~!!窮屈やった!ありがと~」
自由になったクロックハンドは、大きく伸びをしてから手首をさすり、肩や腕をぐりぐりと回すと、
「おいこら!!」
ミカヅキの背中に、叩きつけるような声を浴びせた。
小さくなっている体が、びくっと反応する。

イチジョウは思わず、クロックハンドの両肩を掴んだ。
「待ってください、気持ちはわかりますが…抑えて…」
「えー、なんで止めるんな。あのあほ、2人殺そうとしたんやで。本気やったで」
「…そうだけどよ、いいよ、もう」
本気だったのは、対峙したトキオにはよくわかっている。
宿屋で殺気を体験するとは、思わなかった。

「なんやぁートキオまで~。甘やかすことあらへんで」
クロックハンドがアヒル顔になった。
「彼は、あの…それだけクロックハンド君が好きなんですよ」
「せやっても、やってええことと悪いことがあるやんか」
「お前がきついことするからだよ」
独占欲の強いトキオには、ミカヅキの気持ちがわからないでもないのだ。
「そうかも知れんけど、せやから言うて自分らに迷惑かけるんは違うとる」
クロックハンドは、ぷっと頬を膨らませた。

「ま、とりあえず風呂入るわ。パリパリやし、なんやカユイし」
すとん、とベッドから降りたクロックハンドは、「うわ、最悪や」と呟きながら、ところどころ固まっている髪を、指で摘んでぐりぐりとほぐした。
「でな、俺、全然寝てへんねん。来てもろといて悪いんやけど、今日は休ませてもらえへんかなあ」
「わかった」
トキオもイチジョウも、頷いた。
回復呪文は寝不足を解消してはくれない。無理をするのは間違いだ。

「もう後は大丈夫やから、みんなに言いに行ってんか?」
クロックハンドは2人に笑いかけた。
「マジ、大丈夫か?」
色々な意味での"大丈夫"だが―
「大丈夫やて、心配せんでええよ」
クロッハンドクはあっさり頷く。

トキオはまだうずくまったままのミカヅキを見た。
「あんま、きついこと言わないでやってくれよ」
「わかってるーて」
クロックハンドは、ぱぁっと満面の笑みを浮かべた。
「それじゃ…」
トキオとイチジョウは、ミカヅキを気にしながら部屋を出た。
*
ドアが閉まると、クロックハンドは大きく息をついた。
「おい」
低い声で言って、丸まったままのミカヅキの尻をぐっと踏みつける。

「お前が俺のやり方が気に食わんっちゅうのは当たり前や。せやから、お前が俺をどないしようと、それはええ。けどなあ、なんで無関係の人様にまで迷惑かけるんや」
ミカヅキは頭を両腕の下に抱え込んで、肩で泣いている。
「答えんかい!!」
横腹を蹴りあげられたミカヅキは、勢いよく転がってうめいた。
「2人が許してくれたからいうて、甘えてんと違うぞ」
クロックハンドは苦い顔でミカヅキを見下ろした。
ミカヅキは、横向きになっても手足を縮め、頭を抱えたままで嗚咽している。

「何やぁ、お前はダンゴ虫か?」
クロックハンドは、ミカヅキの頭を踵で小突いた。
「偉っそうな本アホみたいに読んでるくせに、ガキでもわかるような、やってええことと悪いことの分別もつけられん。なんぼ大層なオツム持ってるんか知らんけど、お前の頭にはクソみたいな知識しか入る場所があらへんのやな」
クロックハンドの言葉が聞こえているのかいないのか、ミカヅキは声を出さずに泣き続けている。
「使えん頭はつけとるだけ無駄や。便所に流したら軽うなってええぞ」
吐き捨てるように言うと、クロックハンドはバスルームに入った。

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