122.寝坊

壁の大時計を見ると、集合時間まで、まだ10分ほどある。
トキオは運ばれてきたウーロン茶を一口飲んで、
「ケンカしたのか?」
小声で隣のヒメマルに訊いた。

「う~ん。ケンカじゃなくてね、俺が悪いんだよね」
ブルーベルは、そらした視線といつもよりほんの少し端の下がった口元だけで、かなりのプレッシャーを醸し出している。
「何やったんだよ」
「…やったっていうか、やらなかったっていうか」
言っているうちに、ティーカップが来た。

メンバーと軽く挨拶を交わすと、
「どうした、ラーニャ」
ティーカップは椅子に座らずに、ブルーベルの前にかがみこんだ。
「…」
ブルーベルは首をすくめるようにして、視線を下げた。
「そんな風にふくれてると、可愛い顔が台無しだぞ」
ティーカップは両手をブルーベルの頬にあてて、優しく包み込んだ。
「…、」
ブルーベルは拗ねるように眉を寄せてティーカップを見上げてから、ちらりとヒメマルの方を見た。

ティーカップはブルーベルの髪を柔らかく撫でると、ヒメマルの正面に座った。
「あれだけはっきり恋人宣言しておいて、何をやってるんだ」
ぎろりと睨みつける。
「面目ない…」
ヒメマルが肩をすくめてブルーベルの方を見ると、ぷいと顔を背けられてしまった。
溜息をついている所に、イチジョウがやってきた。

「おはようございま~す」
こちらは極めて上機嫌だ。
イチジョウはブルーベルとヒメマルを見比べて、その状態に気付くと、
「いやまあ、若いうちは色々ありますよねえ」
あっはっはと景気よく笑って、笑顔のままで席についた。
*
トキオはまた大時計を見た。
「いくらなんでも、ちょっと遅すぎるな」
集合時間の10時から、既に30分が経っている。

「寝坊ですかねえ」
「ミカヅキが起こしそうなもんだけどな」
「ミカヅキじゃないかも」
ヒメマルに視線が集まった。

「あれ、みんな聞いてない?」
ヒメマルが言うのに、トキオが返す。
「…ダブルのことか?」
「そうそう。ね、彼と寝てるんだったら、寝坊ってこともありそうじゃない?」
「そうだな」
ティーカップが軽く言った。
「昨日は、連れ立ってどこかへ行ったようだったし」
「…」
トキオが胸がきゅっと痛むのを感じた時、丁度ダブルが近くを通った。

「あ、おい!ダブル!!」
「うん?おう!なんか用か」
ダブルはその場で振り向いた。
「お前んとこ…、クロック泊まってるか?」
遠慮がちに訊いたトキオに、
「いいや?俺んとこったっておめえ、馬小屋だぞ」
カラカラ笑って答えると、
「そんだけか?俺急いでるんで、じゃあな」
ダブルはまた歩いて行った。

「だとさ」
トキオは少しほっとしながら、言った。
「じゃあやっぱり、ミカヅキ君の所で寝坊ですかね」
イチジョウも心なしか、安心したような顔で言う。
「部屋まで行くか」
トキオが提案する。
「みんなで?」
「ん~、いや、俺が行ってくるわ」
ヒメマルを制して、トキオが立ち上がると、
「私も行きます」
イチジョウも腰を浮かした。

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