121.部屋替え

「ブルーベルさんですか?」
宿の入り口で、フロントに呼び止められた。

「そうだけど」
「お部屋が変更になっております。308号へどうぞ」
「?そう」
ブルーベルは3階に上がった。

鍵は開いていて、部屋の中央のテーブルでヒメマルが紅茶を飲んでいた。
「おかえり、結構早かったね~」
「今日は顔見せだけだったんだ。なんで部屋変えたんだ?」
「んー、えーと…」
「別にいいけどさ」
ブルーベルは荷物を置きながら、部屋の奥に目をやった。
「…」
ブルーベルはそちらを向いたまましばらく無言でいたが、腰に手をあてると、低い声で言った。

「なんでベッドが二つあるんだよ」

「…」
ヒメマルが首をすくめて、視線を逸らす。
「前の部屋、ダブルベッドだったろ?」
ブルーベルはヒメマルに詰め寄った。
「そ、そう?気付かなかったな~」
「ウソつけ。ベッド別々にしたくって部屋変えたんだろ」
「…あの…、そう、俺ね、人と一緒だと眠れないたちで」
「それ、今考えた理由だよな」
「~~~」
ヒメマルは必死で顔を背けている。
「…シャワー浴びてくる。あとでしっかり話しようぜ」
ブルーベルは不機嫌な声でそう言うと、バスルームに入って行った。
*
50分後、2人は1メートルほどの間隔をおいて並べられている二つのベッドに、向かい合わせに座っていた。
「自信ないんだよ、ほんと」
自分で用意したピンク色のパジャマを着たヒメマルが、頭を掻いた。

「やってみなくちゃわかんないだろ」
ブルーベルは素肌の腰から下だけにシーツをかけて、あぐらをかいている。
「でも、俺のエッチってすご~くノーマルだし、サイズも普通だし」
「実際やってみたら、意外な発見とかなんかあるかも知れないじゃないか」
「俺みたいなタイプじゃ全然駄目って、ベルが言ったんだよ」
「…意地悪だな」
「失望させたくないだけだよ」
「大丈夫だよ」
「無理だよ」
「…じゃあ、何もしなくていいから、こっちのベッドに入れよ」
「それで我慢出来るような不感症じゃないよ」
「なら我慢しなくていいよ」
「駄目だってば」
「なんだよ!!」
ベルは傍らにあった枕をひっつかんで、いきなりヒメマルの顔面を殴った。

「あた、ちょ、待っ待って」
枕での往復ビンタを繰り返されて、ヒメマルの上半身はぐらんぐらんと翻弄されている。
「ベル、ちょっと、あてっ、ちょっ…あっッ」
ベルが殴る手を休めてくれないので、ヒメマルは頭を腕で抱えた。
「俺のこと好きなんだろ、なにもったいぶってんだよ、気取り屋、根性なし!!」
「ぃや、だって、いてっ!お、俺の気持っちっていうっのもぅ」
「うるさい、知るか!!!お前なんか最低だ、馬鹿野郎!!」
-ひぇえぇえ
殴り散らかされて頭の中が揺れるのを感じながら、ヒメマルは本気で、
-ベルが前衛クラスじゃなくて良かった…
と思った。

ベルはしばらくヒメマルを殴りつづけていたが、最後に、
「くそったれ!!!」
と枕を投げつけて、キルトを頭からすっぽりとかぶってしまった。

どう声をかけても、返事がない。

困り果てたヒメマルは、くらくらする頭を押さえながら、仕方なく自分のベッドにもぐりこんだ。

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