117.リュウ

お話する時間をいただきたく思います。
PM3:00、6:00、9:00
酒場裏の街灯下でお待ちしています

リュウ = ギルディン
( Human / Samurai / N )

今朝、乾杯した時に配られたコースターの裏に書いてあった伝言である。

時間が三つ指定してあるのは、こちらの都合がわからないからだろう。
それぞれの時間に来て待つつもりなのだ。
とにかく、好意的なメッセージなのは間違いない。
こういう待ち合わせに遅れるのが好きではないトキオは、3時になる5分前に店を出た。

辺りに人待ち顔の者は見当たらない。
トキオは街灯の前の花壇に腰をおろして、ひと息ついた。

―さぁて…

どんな相手なんだろうか。
朝からずっとそればかり考えていたのだが、やや東洋系の名前のサムライというと、イチジョウやササハラのような男しか浮かばない。
だとすると、好みのタイプということになるのだが、酒場にはヒゲのよく似合う熊の如き大男の方が多い。
そういうタイプが来ると思っておいた方が良さそうである。

とりあえずどんな相手が現れたにせよ、つきあってくれと言われた場合には「好きな奴がいる」と断るつもりではいるのだが…

-むちゃくちゃいい男だったらどうしよう…

そんなことを考えながら、目に入る男をこいつかな、こいつかなと吟味していると、
「あ、あの…、お待たせしました」
頭の横から、柔らかい声がした。
「…え?」
振り向いたトキオは、開けた口を閉じるのも忘れて目の前の人物を見つめた。
「すみません、呼び出したりして」
すぐ横ではにかむように立っているのは、長いストレートの髪に大きな目、華奢な体つきの、

女性だった。

勝手に男だと思い込んでいた自分が悪いのだが、あまりに予想外だったので、トキオは座ったままで放心状態になってしまった。
「あの…」
女性―というより、少女と言った方が似合う。17、8歳だろうか―は、心配そうにこちらを見ている。
「あ、いや」
トキオは我に返ると、慌てて立ち上がった。
「本当に、ごめんなさい」
「いや、いいんだけど」
うまい言葉が出てこない。
「はじめまして、私、リュウといいます」
少女は頬を赤らめながら、ぺこりと頭を下げた。
「あ、俺は、トキオ。です」
トキオも頭を下げる。

「…ぁ、あの…」
リュウは目を閉じて、胸に手をあてると、一度深呼吸してから、意を決したように顔を上げた。
「私、最近この町に来たんですけど、このお店で、…は はじめて、あなたを見た時から、あの、…すごく」
語尾になるほどに声が小さくなり、顔もまた少しずつ俯いていく。
「すごく、ステキだなって」
「…」
思いもかけない状況に、トキオの頭の回転はかなり悪くなっている。

「だから、どうしても、お話してみたくって…」
リュウの頬はすっかり薔薇色に染まっている。
「うん、…あ、…ありがとう」
トキオは、そう言って頷くことしか出来なかった。
「それで、あの…あの、あつかましいと思うんですけど、できたら、その…お友達になってもらいたいな、って…」
少女は唇を噛み、瞳を潤ませながらトキオを見上げている。

トキオは優しく笑うと、リュウの細い肩を、大きな掌でそっと包みこんだ。

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