116.別パーティ

探索は無難に守衛の4パーティと、ワンダリングモンスター2パーティと戦うだけで終わらせた。
ほとんどが既知のモンスターだったのだが、最後にドラゴンゾンビに初めて遭遇した。

人型アンデッドには倫理的嫌悪感をもよおすものだが、この怪物は生理的嫌悪感の塊だった。
動くたびに腐肉と、なんだかわからない汁がびちゃびちゃと散らばるのだ。
「ヒっきゃあぁあああおおぉお気に入りの服なのにーーーー!!最悪だー!!!!!」
前衛のヒメマルがそれをもろに浴びて、悲鳴をあげていた。

アンデッドには、生前より手ごわいというセオリーがあるので身構えてかかったのだが、イチジョウが一撃で葬ってしまったので、その実力はよくわからなかった。
「能力を見極める前に倒すっていうのは、やっぱり良くないですよねえ」
イチジョウがムラマサを眺めて言ったが、
「でも、モンスターが何やってくるか観察してたら、多分こっちが死んじまうぜ」
トキオが言うと、ティーカップも続けた。
「危ない相手なのは確かなんだから、早く倒せるなら倒してしまう方がいいだろう」
そんなことを話しながら、地上へ戻る。

街へ向かう道すがら、今回手に入れたアイテムを識別していたベルは、
「腐りものにスクロール。全部売りだ。俺、行くとこあるからこれ頼めないか?」
ほぼ手ぶらのクロックハンドに訊いた。
「かまへんよ」
「良かった」
クロックに5つばかりのアイテムを渡すと、ブルーベルはヒメマルを見上げた。
「思ったより早かったから、晩はむこうのパーティと食べると思う。ヒメマルはヒメマルで食べて」
「うん、わかった」
頷くヒメマルの頬に、ブルーベルは少し背伸びするようにしてキスをした。
「早く洗っちゃえよ、その服」
ブルーベルは笑って手を振ると、1人でギルガメッシュに向ってしまった。

「ベルちゃんどこ行ったん?むこうのパーティとか言うてたけど」
クロックハンドに聞かれて、ヒメマルが答える。
「早くマスタークラスになりたいから、夕方から夜にかけて別のベテランパーティと潜るんだって」
「でも、呪文は結構使ってるんじゃないですか?かけもち出来るほど回数残ってます?」
イチジョウが疑問を口にする。
「ビショップは識別できるってだけで連れてってもらえるんだって。ベテランのパーティは、アイテム見つけたらその場で識別して、いらないものはどんどん捨ててくらしいよ」
「なるほど」
得心したイチジョウと一緒に頷いていたトキオは、ヒメマルの身体を指差した。
「ヒメマル、マジでそれ早く洗えよ。完璧にシミになるぜ」
「あ、そうだ!!臭いし、もーーー!!」
「そろそろ、潜る時にいい服着んのやめた方がいいぞ」
「ほんとだね、やんなっちゃうなあ。お洒落したいのにさ~。そんじゃ俺、お先!ベルと俺の分配ぶんは明日もらうね!」
立ち上がったヒメマルは、宿の方角へあっという間に走って行った。
*
残った4人はボルタックでアイテムを売って、いい装備を物色して、ギルガメッシュでひといき、という定番のコースを回った。

「後衛は退屈すぎる」
ワインを飲みながら、ティーカップがぼやく。
「いい加減、前に出ていいだろう」
「まだ爪生えてねえだろ」
隣に座っていたトキオは、ティーカップの左のひとさし指を軽く握った。
「もう痛まない」
「ウソつけ」
「本当だ」
「駄目だ、もうちょっと我慢しろ。リーダー命令だ」
ティーカップは片肘をついて、ふてくされながらそっぽを向いた。

偶然その視線の先に、ブルーベルがいた。
5人の男、1人の女と一緒にテーブルを囲んでいる。
「あれか」
ティーカップが言ったので、トキオ、イチジョウ、クロックハンドもそちらに目をやった。
「あれ、グラスじゃねえか」
少し遠くてよく見えないが、メンバーの中にシキのパトロンがいるようだ。イチジョウが目を細める。
「あ、キャドと一緒にいたロードですね」
「そういえばベルちゃん、キャドのとこ泊まってたんやんなぁ。あっちは切ったんかなぁ」
クロックハンドが言う。
「そりゃ本命が出来たんだから…っても、お前みたいな奴もいるもんなぁ」
トキオが返すと、
「なんじゃーい」
クロックハンドがアヒル顔になって抗議する。
「そうじゃねえかよ~」
その唇をプルプルと指で弾きながら、壁の大時計を見上げたトキオは、
「あ、俺ちょっとヤボ。すぐ戻ると思うけど、待ってなくていいんで」
と席を立った。

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