114.プラチナリング

次の日、集合時間より15分ほど早く酒場に来たトキオがのんびり朝食を摂っていると、ブルーベルとヒメマルが連れ立ってやってきた。

「よう」
「おはよーう」
「リーダー、俺たち当分は日が落ちるまでには上がるよな?」
トキオの対面に座りながら、ブルーベルが訊いた。
「ん~。そうだろうな。夜まではマディがもたねえだろ」
ブルーベルはそれを聞いて頷くと、
「俺、やっぱり遅くなる。先に戻ってて」
ヒメマルに向かってそう言った。
「鍵は?」
「ヒメマルが寝るまでには戻るから、閉めてていいよ」
「晩ごはんは?」
「いっぺん上がってきた時、一緒に食べる」
トキオは2人を交互に見て、目をしばたかせた。

「お前ら、同じ部屋に泊まってんのか?」
「ううん、今晩からだよ」
「今晩…」
ヒメマルの言葉を反芻して、トキオはブルーベルを見た。
片肘をついて、涼しい顔をしている。
ヒメマルに視線を戻すと、ぱちんとウィンクを返された。

-マジで「相思相愛、ラブラブ間違いなし」って予告通りになったのか!?

トキオは驚きのあまり、一瞬呆けてしまった。
自分が「どう見られてるんだろう」だとかなんとか悶々としている間に、昨日まで友人だった2人が同じ部屋に泊まる仲になっている。
我に返ると、以前にも感じたことのある取り残される不安と、寂しさがないまぜになったようなあの感情が、ぐっと湧いてきた。

イチジョウにササハラ、クロックハンドは両手に花、ブルーベルとヒメマル、ティーカップには…

テーブルに置いた手の甲に視線を落とすと、細い指がそっと重なった。
トキオが、ふっと目を上げると、
「焦ることない」
そう言って、ブルーベルは優しく笑った。

少し戸惑ってから、
「…だよな」
トキオは照れ笑いして、ブルーベルの指を見た。
「あれ、指輪なんかしてたか?」
白い指には、プラチナに緑の石をあしらったリングがはまっている。
「ヒメマルに貰ったんだ」
ベルはその指輪を少し眺めてから、確認するようにヒメマルを見た。
「ずっと前に買っておいたやつなんだけどね」
ヒメマルは、笑顔でベルを見つめ返す。

「お前らがそう…付き合うってこと、…だよな?…になったの、昨日か?」
昨日と今日で、2人の間の空気がまるで違っている。
「そ~」
ヒメマルがこぼれるような笑顔で言うと、そこへ、
「付き合うてるてなに、なに、誰が!?」
クロックハンドがすべりこむようにトキオの横に座った。
「俺とベルだよぉ~~」
ヒメマルがブルーベルの肩を抱きながら、語尾にハートマークがつきそうな声で答える。
「うわっ、ほんまに!?」
クロックがブルーベルを見ると、
「まぁね」
ブルーベルは上目づかいで小さく笑った。

「ヒメちゃんの何が良かったん!?」
「それどういう意味だよ~」
ブルーベルは何も言わずに、頬に笑みを乗せたままでいる。
「答えてくれへんしー。…なんや、言えへんようなことかいな?あ!」
クロックハンドはポンと手を打って、真顔になった。
「ちんちん?」
「クロック~!!!」
ヒメマルは赤くなったが、ブルーベルは大笑いしながら、
「まだやってないよ、バカ」
と言った。

クロックハンドはアヒル口になって、なんやまだなんか、と呟くと、隣のトキオの方を向いた。
「トキオも笑うてる場合ちゃうがな!!頑張らな!!」
「お、俺は、マイペースで行くって決めてんだって」
「トキオのマイペースは遅すぎるねん~」
「色々あんだよ!」
「あ~あ、なんやかんや理由つけて決戦日伸ばすタイプやわ」
トキオが反論出来なくなった時、店にティーカップが入ってきた。

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