111.収穫

ワンダリングモンスター3パーティと、守衛の2パーティとの戦闘をしただけで回復呪文が底をつきたので、トキオ達は早々に地上に戻った。

時間的には短い探索だったが、二つの収穫があった。

ひとつはアイテムだ。フロストジャイアントの残した宝箱から-トキオが開けそこなって毒針の餌食になったものの-出てきたアイテムをその場でブルーベルが識別した所、カシナートの剣だということがわかったのだ。

もうひとつの収穫は、罠に対する新しい認識である。
*
「ムラマサ以来の、お宝らしいお宝だな!」
自前のラツモフィスで解毒して笑顔になっているトキオに、
「君はもう宝箱を開けるな」
ティーカップが言い放った。

「ナガッパ君に任せる方が、はるかに安心出来る」
「その呼び方やめてて言うてんのに~」
クロックハンドがアヒル顔になっている横で、トキオが反論する。
「まだ慣れてねぇんだから、多少下手くそでも仕方ねえじゃねえか」
「毒針なら君が食らうだけだ。それはどうでもいいにしても、テレポーターの解除に失敗した時、仕方ないで済まされると思うのか」
「、ぅ、、、そりゃ、こんな深い層で、いきなり知らねえ座標に飛ばされたら、やべえかなとは思うけど…この階、そこらじゅうに入り口に戻れるポイントがあるって話だしよ」
「イチジョウ、この階のマップを見せてくれ」
「あ、はい」
イチジョウからマップを受け取ったティーカップは、トキオの目の前にそれを広げた。

「いいか。キャドからの情報メモによると、この階には六つの扉があるということだった」
トキオ以外のメンバーも、まだほとんど空白の10階マップを覗きこむ。
「そのうち二つの扉を開けても、マップがこれだけしか埋まっていない。あと四つの扉を開けたとしても、マップがすべて通路で埋まるようにはとても見えないだろう。ミカヅキの資料には、この階のテレポーターには気をつけろというメモもあった。となると…」
「…う、うん?」
よくわかっていないのが丸わかりのトキオの顔を一瞥すると、ティーカップは馬鹿にするような溜息をついて、マップをパンッと指ではじいた。
「まったく鈍いな。通路以外の部分は全てぎっしり詰まった土と石、ということじゃないか」
「…ひゃっ」
クロックが裏返った声をあげて、口に手を当てた。

「わかったか?他の階なら任意の座標の通路に飛ばされるだけで済むかも知れないが、この階でテレポーターにひっかかった場合は、石の中に実体化してしまう可能性が非常に高いんだ」
「…」
トキオをはじめ、メンバーは皆顔色をなくした。

「ちっ、ちょっ、ちょお、なあ、お 俺も、そんなん、全然気づいてなかったで、他の罠なら任せてもろてかまへんけど、そんなやばい罠の解除、俺かて絶対パスやわ」
クロックは両手と頭を振って、思い切り嫌がっている。
「これからは、カルフォした時にテレポーターと出たら、すぐに諦めましょう」
当然皆、イチジョウの意見に同意した。
*
日がまだ当分沈みそうにない時間に切り上げたので、解散後はそれぞれ自由行動に移った。

「物足りねえ気もするけど、こんくらい慎重でいいよな?」
トキオ、イチジョウ、クロックハンドの3人は、ギルガメッシュに残って一杯やっている。
「もちろんですよ。資料によれば、私達がまだ会ったことのない強力な怪物もいるようですしね」
「せやけど、テレポーターの話はほんまびびったわぁ。ティーって無謀なように見えて、冷静なとこあるんやね」
言いながら、離れたテーブルでビアスと話しこんでいるティーカップに視線をおくる。

「トキオ、ええんかいな、あれ。会うてからずっとあんな感じやん?」
「あ?…あー…、、…、でも、どうしようもねえだろ。ダチだって言ってたし、まぁ…、幼馴染みの久々の再会ってんで、話すことも色々あんだろうし」
「今はダチかも知れんけどな~。再会を喜びおうてるうちに…っちゅうこともなきにしもあらずやで。早いこと好きやて言うといた方がええと思うけどな~」
「…う…」
トキオが口をつぐんだので、今度はイチジョウがクロックに話し掛けた。

「あの~、クロック君…。今朝、ミカヅキ君がひどい酔い方してたんですが、何か…」
「なに、あいつ酔うてたん?飲めへんくせにあほちゃうか」
「もしかして、ダブルのこと話したのか?」
トキオが言うと、イチジョウが不思議そうな顔をする。
「ダブル君?」
「うん、話したで。"ダブルとお前と二股かけるから、夜になって俺が部屋に帰らんでも心配せんでええ"て言うておいた」
「うお、ひでえ!!!」
トキオが思わず率直な感想を叫ぶ。
「言わんで股かける方がひどいんちゃうかなぁ」
「あの、いつのまにそんなことになってたんですか?」
「それがよ、ついこないだなんだけど…」
トキオはイチジョウに説明し始めた。

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