109.炎の杖

次の日は、朝から全員がアイテム集めの為に散らばっていた。

朝食時にイチジョウが、
「昨日じっくりデータを見てて気づいたんですが、私達、ポイズンジャイアント四匹以上に不意打ちされたらベストコンディションでも全滅します」
と断言したからである。

ポイズンジャイアントのブレスは、パーティ全体に強力なダメージを与える。
先制攻撃された時、一斉にブレスを吐かれた場合に受けるダメージと能力値と照らし合わせると、一番体力の値が高いとされているトキオでも、相手が四匹いれば耐えられないというのだ。

「昨日、すぐ帰ってきて良かったな…」
トキオが首を振る。
「一発で全滅する可能性があるってことは、全員の体力がもっと増えるまで10階には降りられないってこと?」
「せやけど、四匹どころか、もっと出てくることかてあるわけやんか。それ考えとったらいつになったら10階いけるかわかったもんやないで」
「現実的な話をしよう。ブレスを緩和するようなアイテムはないのか?」
ティーカップにそう振られたブルーベルは、
「ブレスを緩和ですか…ブレス…ブレス…」
目を閉じ、ビショップとしての知識を総動員させている。

「10階の敵に不意打ちされた時、全滅する可能性があるのはポイズンジャイアントだけだな?」
「そうですね。資料を見る限りでは、他にそこまでの先制攻撃を出来る怪物はいないようです」
イチジョウが答えると、ティーカップは顎に手をあてた。
「じゃあ、ブレス対策さえすればなんとかなるわけだ」
「あっ」
ブルーベルが顔を上げた。
炎の杖が、火炎を緩和するんだ。ブレスも可能かどうか―」
ブルーベルはあたりを見回すと、立ち上がった。
「訊いてくる」
*
しばらくして、ブルーベルが戻ってきた。
「いけるよ、炎の杖を持ってたらブレスの威力も半減させられるそうだ」
「半減ですか!」
イチジョウが掌を打つ。
「だったら随分話が違ってくるな」
ティーカップは満足そうだ。ヒメマルがブルーベルに尋ねる。
「それ、売ってるの?」
「結構宝箱から見つかるらしい。ボルタックに売ってる人もいるだろうな」
「じゃあまず店に行ってみて、足りなきゃギルガメッシュうろついて誰かに譲ってもらうなり、地下に潜って探すなりすりゃいいってわけだ」
トキオが言うと、皆頷いた。
*
そんな流れから、ボルタックにあった二本の炎の杖を買ったパーティは今、手分けして残り四本を集めにまわっている。

時間が悪いのか、ギルガメッシュの中にパーティの顔見知りはほとんどいなかったので、話したことのない連中に片っ端から声をかけているような状態だ。

トキオとクロックハンドは手分けしてEとNのテーブルを、ヒメマルは全く悪びれもせずにGのテーブルをまわり、ティーカップは属性に関係なくエルフを中心に声をかけている。
ブルーベルは、シキのように識別を請け負っているビショップに、最近炎の杖の識別を依頼されたことがないか尋ねているようだ。

店の周囲にいる人間にあたってみることにしたイチジョウは、ふと目をやった路地に人影をふたつ見つけて、何の気なしに覗き込んだ。
どうやら、朝っぱらから酔っ払っている者がいて、それをもう1人が介抱しているようだ。

「あれっ、ササハラ君?」
イチジョウは介抱しているのがササハラなのを見てとると、路地に入った。
「イチジョウ殿」
振り向いたササハラの向こうにいるのは、黒装束の男だ。

「そっちはミカヅキ君ですか?どうしたんです、こりゃあ」
「飲めない癖に、きつい酒ばかりたて続けに流し込んだんですよ」
ミカヅキは店の壁に手をついてうつむき、思いきりえづいている。
「なんでまたそんな無茶を…」
背中をさすってやりながらイチジョウが言うと、ササハラが首を振った。
「私も止めたのですが、なにやら相当辛いことがあったようで」
「…」
イチジョウの頭に、ミカヅキが辛い=クロックハンドに振られた。
という単純明快な状況が浮んだ。
もしそうだとしたら、声のかけようがない。

イチジョウは背中をさすってやりながら、しばらく困っていたが、結局、こう声をかけた。
「…ぁーあの、ササハラ君か、ミカヅキ君の知り合いで、炎の杖を売ってくれそうな人はいませんかね?」

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