106.おすそわけ
トキオは夕日に染まる円形土砦跡でひとり、ぼんやりと座っていた。はぁ~あ。
何度目かの大きな溜息をつく。
今日思い切ってブルーベルに話を聞いたのは、ダブルの言葉…というより、ダブル自身に影響されたからだ。
おかげで昨晩は、色々なことを考えた。
まとめてみると、
ダブルみたいに、ハッキリ言える男はかっこいい。
あんな感じなら、告白された方も嬉しいと思う。
俺は逃げ口上とか言い訳ばっかり考えてて、全然かっこよくない。
そんな奴に好かれても嬉しくない。
まずい。
でも、いきなりダブルみたいになるのは絶対無理。
少しずつ変わる努力をしよう。
という感じである。
トキオは物心ついてからずっと、その恋愛に対する姿勢について、何度も周囲に意見されてきた。が、その度に「言われて出来ればやってるんだよなぁ」という言い訳をして、結局本気で治そうとしたことはなかった。
そんな年季の入った逃げ腰根性に、やっと正面から向き合う気になったのだ。
単純なトキオには、目の前で手本を見せてもらうことが一番よく効いたらしい。
思い立ったら吉日とばかり、最初の一歩をどう踏み出すか夜通し考えて、ブルーベルとの接触に踏み切ったのだが―
-はぁ…
その決断は失敗だった …というわけではない、と思う。
しかし、あのほんの少しの間に強烈な疎外感を味わってしまった。
3人とも昔馴染みなのだから、当然といえば当然で、それはよくわかってはいるのだが…。
トキオは空を仰いだ。
―まぁ、でも…本格的な傷心初体験にゃあ、こんくらい駄目元気分でぶつかる方がいいかな。
トキオは今回、結果がどうだろうが、とにかく告白だけはしようと心に決めている。
昨晩色々と考えている時に思い立ったことのひとつだ。
-自覚はねえけど、もういい歳になってんだし。
逃げまわんのもいい加減卒業しなきゃな。
今までなら間違いなく諦めているだろうこの状態で、尻込みしながらもまだ前に進もうとしている自分には小さな満足感のようなものがあって、これはなんだかいい感じだ。
…が、
-…
…はぁ…
自然と溜息が出るのはどうしようもない。
「たそがれタイムー?」
後ろから、聞き慣れた声がした。
「まあな」
「おすそわけしてや」
「いくらでもどうぞ」
「ほな、いただきます」
クロックはトキオの横に腰を下ろした。
「さっき、ダブルに口説かれてたろ」
ここに来る前ふとギルガメッシュを覗いたら、ダブルがクロックに果敢にアプローチしているのが遠巻きにもわかったのだ。
「あ、見とったん?そやねんな~」
「どうすんだ?」
「ん~ん、難しいねえ。おっとこまえやからなあ。当分、考えさせてもらお思てる」
「かぁ~、両手に色男かよ、贅沢だよなぁ」
トキオが笑うと、
「せやろ」
クロックもニカッと笑顔を返した。
「トキオはどないすんの、諦めてまうん?」
「ん~、…ま…、頑張ろうって気は、あんだけどな」
「あんなん相手やもんなぁ」
「だぁろ、あれは反則だよなぁ」
トキオは大げさに口を尖らせた。
「あんな」
クロックはトキオの方を向いて、座りなおした。
「うん?」
「トキオがティーのこと諦めそうになったら言おうと思うてたことがあんねん」