102.マロール
地下に降りてすぐ、ティーカップはベルに座標を耳打ちした。「それじゃ、唱えてくれ」
「ちょっと待てよ、やっぱ、万が一ってこともあるし」
「そんなことを言ってたら、いつまで経ってもマロールが使えないぞ」
「け「うるさい奴だなあ、何かあったら僕が責任を取るから、いいじゃないか」
「石の中でどう責任取るってんだ!!」
言っているうちに、視界がふらっと歪んで―
「わっ、うわわっ!!!」
「たっ、とっ、とっ…」
「っひゃあぁ!!」
「あだっ!!」
9階のシュートの真上にテレポートしたらしい。
実体化した直後に落下して、ベルとティーカップ以外は着地におおわらになり、トキオなどは尻餅をついてしまった。
「いって…あのなあ…ベルも、せめてシュートの上だって言ってくれよ…」
トキオが尻を摩りながら身体を起こす。
「あ、悪い」
「転んだのは君だけだぞ、この場合悪いのは君の身体能力だ」
ティーカップは腰に手をあててトキオを見下ろしている。
「…そうですか…」
「君達も早く位置につかないか、ほら」
ティーカップはイチジョウ達前衛の腕を引いて、いつものポジションにおさめると、
「さあ行くぞ!」
後衛からハッパをかけた。
トキオは、いつになく行動的な今日のティーカップを、寝不足気味の目でちらりと見た。
「うん」
独り言のように小さく頷く。
昨夜、ひと晩中色々なことを考えて、考えて、考えに考えて ―
トキオは、ひとつの決心をしていた。
ふとブルーベルを見ると、彼もティーカップを見上げている。
やはり、ティーカップのテンションが高さが気になっているのだろうか。
「ほな、行こか」
クロックハンドがストレッチしながら言うのにパーティが頷いて、10階の探索がはじまった。
「一直線だね…」
狭い通路を見回して、ヒメマルが言った。
「隠し扉も…ないみたいですね」
壁を念入りに眺めながら、イチジョウが言う。
「最下層だってのに、こんなわかりやすい道でいいのかな」
トキオの言葉に、クロックハンドも不審を顔に表して言った。
「逆に、なんかありそうやな」
警戒しながら道なりに歩いていくと、しばらくしてドアにぶちあたった。
「これ、開けたら絶対なんか出るやんな」
クロックが胡散臭いものを見るような目で扉を眺める。
「ラツマピックかけてあるよな?」
トキオがイチジョウに声をかけた。
「大丈夫です」
その返事を聞いて、
「よし。そんじゃ、資料に書いてあったこと出来るだけ思い出して、心の準備!」
トキオは皆に言う。
「あ~テストみたいや、嫌やわあ」
クロックハンドは落ち着かないようだ。
「大体、何が出ても対処できると思うけど」
こういう時、怪物辞典が頼もしい。
「じゃ、開けるよ。いい?」
ドアに手をかけて振り向いたヒメマルに、メンバーは頷き返した。