99.お似合い

「何がどうなん?」
クロックハンドが最初に口を開いた。

「…ティーの、知り合い…だよね?」
ヒメマルの問いに、
「まぁ…うん」
ブルーベルは、曖昧に答えた。

イチジョウは、トキオの様子をこっそりと伺った。
-あ~、真っ白ですね。
2人が去った方向を見送ったまま、放心状態である。
あまりに似合いの雰囲気と長く熱い抱擁は、色恋沙汰では滅法打たれ弱いトキオにとって充分な衝撃だったようだ。

「なあ、坊ちゃまていうのはなんでなん?教えてえな」
クロックハンドがややアヒル顔でベルに訊いた。
「あぁ。随分昔だけど、ちょっとだけティーのお屋敷に世話になってたから。彼は覚えてないみたいだけど」
「あ、やっぱりそうなんやぁ」
「じゃ、あれはその頃の知り合い?」
「そんなとこだ」
「…」
「…」
「…」

<2人はどういう関係だったんだ?>
という質問が喉のあたりまで出かかって、全員がこらえている所に、

「今のでかいの、ティーカップの男か?」
クロックハンドの頭の上からあっけらかんとそんなことを言ったのは、…やはりダブルだ。

「いやあの、そうと決まったわけやないねんで」
クロックハンドが少し慌てて言うと、
「ダブル、10階のこと色々聞きてえんだ、いいか?」
トキオが立ち上がった。

「あ?おう、構わねえよ」
「そんじゃ、飲みながら話そうぜ」
トキオは荷物を掴むと、
「みんなも情報収集、よろしくな」
ダブルの背中を押すようにして、カウンター席へ行ってしまった。

*
「やっぱりあの2人、誰が見てもそういう風に見えたんやなあ」
トキオがカウンターまで行くのを確認してから、クロックはそう言って何度かゆっくりと頷いた。
「エルフ同士ですしねえ」
イチジョウが、フォロー気味のニュアンスで言う。
「…実際のとこ…2人はどういう関係、だったの?」
ヒメマルが小さく訊くと、
「俺が話すことじゃないから」
ブルーベルは識別済みアイテムの入った大きな荷物をヒョイと担いで、席を立った。

「ベルちゃんて、見かけによらず逞しいなあ」
背中を見送りながら、クロックハンドも立ち上がった。
「ほな俺も、お先ですー」

残ったイチジョウとヒメマルは、なんとなく顔を見合わせた。
「…トキオ、諦めちゃったりして」
ヒメマルが言う。
「まさか。いくらなんでも気が早くないですか」
「でも、意外とナイーブっていうか、傷つくの嫌いみたいなとこあるでしょ」
「…確かにそれはありますが…。随分ショックを受けてたみたいですしね」
「ダブルに乗り換えちゃったりしてね」
「あぁ、有り得ないとは言い切れないですねえ」
「それはそれで、悪くないと思うけど」
「ですね、彼もとてもいい男ですから」

ティーカップとビアスがそう見えたように、トキオには近い雰囲気を持つダブルの方がお似合いなのかも知れない。
お互いそう感じたのがわかって、ヒメマルとイチジョウは頷きあった。

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