97.新シフト

次の日、パーティは新しいシフト―

前衛:イチジョウ(侍)/ヒメマル(ロード)/クロックハンド(忍者)
後衛:ティーカップ(ロード)/トキオ(盗賊)/ブルーベル(ビショップ)

―で9階に降りた。

「あれのどこが僧侶のティルトウェイトなんだ」
ティーカップがぼやいたのは、何度か戦闘を終えてキャンプを張って小休止している時だった。
もちろん、トキオのマリクトの威力について言っているのだ。

「それはー、…お前が言ったんじゃねえか」
「君の知力に応じてマリクトの威力が落ちてるんだぞ、少しは自分を責めたまえ」
「僧侶じゃなくて、今は初心者盗賊のティルトウェイトなんだからさ、そのへんは仕方ねえだろ」
「盗賊のティルトウェイトじゃあ、わけがわからないぞ。それを言うなら盗賊の使う僧侶のティルトウェイトか、盗賊のマリクトというべきだ」
「う、?ん??、?とにかく、それなんだからよう。盗賊が呪文使うだけでも立派だと思えよなー」
「君が今盗賊なのは自業自得じゃないか」
「盗賊いねえと宝箱開けらんねえんだぞ」
「話題をすりかえるのはやめたまえ。大体、そのスキルだって専門職の盗賊の君より、忍者の長カッパ君の方が確かじゃないか」
「さりげなく変な呼びかたせんとってー!!」

今日のティーカップは後衛の退屈もあってかとみに口数(主にトキオへの悪態)が多いのだが、それに対するトキオは、言い返しはするものの口を少し尖らせるぐらいで、以前のようにヤケになることはない。

傍目には、意識して流していた時よりも更に落ち着いたかのように見える。
まるで肉体年齢と共に精神的にも成長したかのようだが…

-恋は盲目ってえか、アバタもエクボとかの、あれだよな。…平気になっちまってるわ、俺。

単純なトキオは、好きだと完全に自覚してからは、悪態をつかれることすらちょっと嬉しいのだった。

降ろした前髪が本当にいいなあと思ったり、昨日の笑顔がちらついたりして―
トキオは移動中も、キャンプ中も、戦闘中ですら、気がつくとティーカップの横顔を追っている。

一緒に後衛にいるブルーベルには丸分かりらしく、ついさっきも目があって意味ありげに小さく笑われてしまった。

-やっぱ俺、はたから見ててもわかりやすいんだろうなぁ…

ちらりとティーカップを見る。
暇があれば眺めているわけだから、何度か視線がぶつかったりもしているのだが、ティーカップの様子はいつもと変わらない。
気付いているのか、気付いていないのか―

-わっかんねえ。

小さく首を捻った時、

「この感じなら、近いうちに10階にも降りられそうですね」
イチジョウが笑顔で言った。
工房で買ってきたという腕輪型のマジックアイテムの効果は覿面で、慎重かつ大胆に、時には呪文を駆使しながら闘う今日のイチジョウには、誰もが思わず見蕩れてしまうほどだ。

腕輪を撫でながら、
「これ、壊れたらどないなんの?」
と言ったクロックに、
「あー、どうなっちゃうんでしょうかね。聞き忘れちゃいましたねー」
と答えていたのが、いささか心配ではあるが。

転職直後にも関わらずよく働いているクロックは、最初、腰に大きな布を巻いていたのだが、一度目の戦闘が終わった後で、
「鬱陶しい!!」
と、捨ててしまった。布の下から現れた服の、予想以上の露出の高さに、
「お前、ちょっと動いたら足っつか尻の方までほとんど丸出しじゃねえか…いくらなんでもそりゃ…」
やや赤面しつつ言ったトキオに、
「何言うてんの、忍者はハダカで最強やて言うやんか。まだ脱ぎたりんくらいやで」
髪を束ねながら、クロックはにまっと笑った。

「…次、10階降りるつもりで稼ぐか。」
ベル、ティーカップと視線を移すと、2人共頷いている。

最後に、確認するように目を向けられたヒメマルは、
「もうぜ~んぜんオッケーだよ、任せて~」
満面の笑顔で答えた。

Back Next
entrance