89.予約済み

「ない?」
「はい」
イチジョウとササハラは最も規模の大きいビショップのギルドへ、ムラマサ制御用のマジックアイテムを買いつけに来ていた。

「あるにはあるんですがね…作れる人間が少ない上に、作るのに時間がかかるので、予約しておく方が多いんです。今あるぶんはすべて予約済みなんですよ」
「…希少価値が高いように見せかけて、値を吊り上げるつもりじゃなかろうな」
ササハラの鋭い視線に、販売係は慌てて手を振った。
「め、滅相もない!!」
「まあ仕方ないですよ、予約しておきましょう」
イチジョウがなだめる。
「しかし…」
ササハラは納得しきれていないようだ。
「当分、切り裂きの剣で間に合わせますよ」
「ムラマサとでは天と地でしょう」
「かといって使ってしまうと、今度こそササハラ君を殺してしまいかねませんよ」
言っている所へ、
「出来てるか?」
侍らしき青年が、大股で店に入って来た。

ソウマ
「!」
ササハラに呼ばれた青年は、びくりと視線を止めた。
「この店に何か用なのか」
ササハラが聞く。
「頼んでおいたアイテムがあってな」
「ムラマサ用のアイテムか?」
「そうだが、どうかしたか」
「譲れ」
「なに!?」
「ぬしのムラマサ、元々私が譲ったものだろう。アイテムくらい譲れ」
ササハラはソウマと呼んだ青年の胸倉を掴むようにして、詰め寄った。
「…お、俺とて長い間待たされたのだ、何を勝手な」
「サ、ササハラ君、それはちょっと無茶ですよ」
イチジョウが間に入る。

「おぬしが危険なものだと言うから、調べに調べてやっとのことでここに都合の良いものがあると…」
ソウマが言うのを、ササハラが遮る。
「ぬしの都合は訊いてない」
「…とにかく、譲らん!」
言ってササハラを突き放すと、ソウマはカウンターに向かった。

「あの」
ソウマと入れ違うように若い販売員がカウンターの奥から出て来て、ササハラとイチジョウに近づくと、
「ここから馬車で半日の所に、ギルドに所属してない連中が運営してる、マジックアイテム専門の工房があるんです。在庫は豊富だし、値段は半額程度。腕は確かですよ」
早口で囁くように言った。
イチジョウが質問をしようとしたが、
「これ、次回の入荷の予定ですんで!またのおこし、お待ちしておりまーす」
大きな声でそう言うと、販売員はイチジョウに紙片を手渡して、カウンターの中に戻った。

軽く開いてみると、どうやらその「工房」への地図のようだ。
「出ましょうか」
「…ですね」
ササハラとイチジョウは、連れ立って店を出た。
*
ギルガメッシュへ向う途中の道で、2人は地図を開いてよく眺めてみた。
森と山と洞窟に囲まれた土地に印がつけてある。

「あの販売員、この工房とやらの回し者でしょうか」
「でしょうね。ギルドに来た客を工房の方に流してるんでしょうが、簡単に信用していいものかどうか…。がらくたを掴まされないとは限りませんよね」
「識別に長けたビショップに同行を頼んでは?」
「それはいいですね。ベテランのビショップの知り合いは、私にはいないんですが…」
「私に心当たりがあります、誘ってみましょう」
「ササハラ君は、顔が広いですねえ」
「私のパーティのメンバーは皆半分フリーのようなもの故、度々入れ替わるので。日々顔見知りが増えているような具合です」
「さっきの侍も、そういう知り合いですか」
「…あれは…」
ササハラはしばらく言葉を選んでいたが、
「まあ、…そうです」
と答えた。
「そうですか」
イチジョウが横顔で笑うのを見て、ササハラは口を結ぶと、微かに頬を染めた。

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