88.そういうこと

「ヒメちゃんは、ベルちゃんとどないなん?仲ええだけ?」
朝のギルガメッシュで、クロックがピーナツをもりもり齧りながらヒメマルに訊いた。

「あのね、今のとこ俺の片思いなんだ」
ヒメマルは口元に手をあてて、嬉しそうに笑った。
「えっ、えっ、じゃあ、これからなんや?」
「そっ」
「うわ~、ええなあ、わくわくすんなあ」
「いいなあって、クロックだって素敵な彼氏がいていいじゃない」
「え~?あいつ、こっちが何もせんでも勝手に好き好き言うてんねんもん、つまらへん」
「またー。そんなこと言って、贅沢だよ~!」
「そない言うたかて、やっぱりときめきとかロマンスとか恋の悩みとか、欲しいやんかぁ」
「贅沢、贅沢!」

2人でやいのやいのとやっている所へ、トキオとティーカップが来た。

「おはよー」
ヒメマルが手を振る。
「よう、他はまだか?」
トキオは席の周りを見回す。いつも早い2人がいない。
「ベルはビショップに転職に~」
「イチジョウはムラマサ抑えるアイテム買いに~」
「なんだ、そんじゃ午前休みか」
トキオはどかっと椅子に腰を下ろした。

「そういうことね」
ヒメマルが言うと、
「待ってる間に蒸れるじゃないか」
ティーカップが眉間を寄せた。ヒメマルが、何の話だろうという顔をする。
「いっぺんほどいてやるよ」
トキオがティーカップのグローブをはずして包帯だらけの指が現れると、ヒメマルとクロックは、
「どしたのそれ!?」
「どないしたんな!」
2人して目を丸くした。
ティーカップは不機嫌な顔で横を向いている。

「こいつ昨日、ちっと爪やられてな。爪って呪文きかねえらしくて、医者行ったらこうしろって言われたんだよ」
「大丈夫なの?」
「僕は平気だと言ってるのに、この男は大袈裟なんだ」
「そりゃなあ、ほっとけへんわなあ~」
「うん」
トキオが素直に返事をしたので、冷やかしたクロックハンドはアヒル顔になった。

トキオは別段怒っている風でもなく、たまに唇を舐めつつ、少し目を泳がせながら、ティーカップの包帯を解いてやっている。
-れれ?
前に比べてムキにならなくなったのはわかっていたが、全く反応がないというのは。
隣に視線を送ると、ヒメマルもクロックを見ていた。
-…これってさ
-…そういうこと?
2人は目で会話した。

「君は一緒に転職出来なかったのか?」
開放された手をひらひら振って風を楽しみながら、ティーカップがヒメマルに訊いた。
「うん。ベルは早く転職したいから、昨日お開きになった後に他のパーティと潜ったんだって」
「精力的だよなあ」
「一番成長率が悪いんだから、君もそれくらいのことをしたらどうだ」
「カラスに行水できないってったの、お前じゃねぇかよぅ」
「言われたからといってやらないでどうするんだ、赤ん坊の方がまだ君より冒険心に溢れてるぞ」
「~…」
トキオはティーカップから目をそらして、唇を尖らせた。
それでも、怒っているふうではない。目元は笑っているようですらある。
クロックとヒメマルは、またちらりと視線を交わした。

「でもマジで、昼過ぎまで俺も潜ってくるかなあ」
トキオは、大時計を見て言った。
「トキオも、もうすぐ僧侶文全部マスター出来そうなんだよね!明日には転職出来そう?」
ヒメマルが聞く。
「…それがなあ。忍者って、平均的に全部の能力が高くないとだめだろ。俺は、知力とか、俊敏さとか、運とか」
言いながら、指折りする。
「そのへんが忍者になるにゃあまだまだ足りねえらしいんだわ」
トキオは頬杖をついた。

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