86.具体的

-あー。

ティーカップを隣室に帰してからシャワーを浴び、横になってみると、今朝方密着していた時の感触が蘇ってきた。
エルフらしく体のつくり自体は繊細なのに、それを補うような締まって無駄のない筋肉と、反するようにきめ細かい肌、柔らかい髪の感触。そして、体温。

-くそ。

頭で色々考えているうちは、思い込みだとか、そんな気がする…で終わらせられるものであっても、体に触れてしまうと、気持ちがぐっと具体的になる。

また身を挺して助けてもらったということも手伝ってだろうか。
昨日までは感じなかった、胸の奥を何かに掴まれているような感覚がある。
自分がどういう時にこうなるのか、トキオはよく知っている。

-も…

 …

 仕方ないよな。


認めたくなかったのだが、元々単純なので、ここまで来ると自分をごまかせない。

-…


 好きだ。
 

「くっそ~…」


ダブルの作戦にまんまとしてやられたような気がする。

トキオは、頭を抱えた。

エルフ。
金髪。
高飛車。
気まま。
マイペース。
年齢不肖。
毒舌。
理屈屋。
お坊ちゃま。

どれもこれも、今まで好きになった男には全くなかった要素だ。
ただでさえ恋愛下手なのに、そんな相手にどうアプローチすればいいのか、見当もつかない。

どうすればいいかわからないのだが、
…何だか、浮き立つような気持ちもある。

告白する勇気がないとはいえ、人を好きになること自体はやはり楽しいのだ。

-好き、かぁ。

頬が緩む。

-好きなんだよなぁ~

トキオは枕を抱えると、落ち着きなくゴロゴロと寝返りを打った。

-参ったな。

たまに止まって、ふと考える。

-どうするよ。

 どうするってもな~


また転がりだす。

-俺、明日から多分、意識しちまうだろうなあ。
 …まずいな~。

 …でも…
 あいつだって恋したことないわけじゃないだろうし、気がある素振りみたいなのは、さすがに気付くよな。
 やっぱ、気付いたらそれなりにリアクションあるよな?

 …ないかな…。

 俺はそういう素振り見せてくれる奴、わかりやすくって助かるんだけどな。
 そもそもあいつ全部がわかりづらいからな…。

 あれ、何で俺あいつ好きなんだろう。

トキオの頭に、ティーカップの様々な表情が浮かぶ。

 わかんねえとこが好きなのかな。

 どうなってんだ、俺そういうの嫌いなはずなのに。
  
 でも、なんか、気持ちが引っ張られんだよなあ。
  
  
 あ…待てよ。
 あいつ、俺が「誰にでもってわけじゃねえ」っても、思いっきり流してたよな。

 …あれって、全然脈ナシってことなんじゃ…

 いや、それとも、

 照れ隠し?

 なーんつって。

 いやでも、あり得ないこともないんじゃねえか?
 俺にばっかりちょっかい出すのは確かだし、

   なんつっても、二回も痛い目みて助けようとしたって事実があるしな。
 やっぱあれは、Eの行動じゃねえよ。
 
 となるとだ。

 あの突き放すようなセリフだの、能面みたいな表情だってだなぁ。


自分と会話をはじめたトキオの夜は、長い。

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