81.相談
歩くうちにようやく落ち着いてきたヒメマルは、ロイヤルスイートの一室を訪ねていた。「そっかあ、ビショップになったんだ」
「やはり呪文は全て使えるにこしたことはないし、識別が出来ると出来ないでは利便性が天地の差だからな」
そう言って、カイルはハーブティーを運んで来た。
調べものをしていたらしく、長い髪は三つ編みにまとめている。
転職で5才の肉体年齢を重ねたといっても、元々大人びた男だったので、外見にあまり変化がない。
「それで、結局何の用なんだ?そんな顔色をおして来る程の用なのか?」
「あれ、まだ戻ってない?」
ヒメマルは、頬に手を当てた。
「白い」
「やだな~」
両頬を挟むようにマッサージしながら、ヒメマルは言った。
「今日、メンバー2人がシュートで10階に落っこちてね。後から追っかけて降りたんだけど、もー怖くてさあ」
「ああ、そういうことか」
「うん。…でね、俺のパーティの仲間ね。はっきりそうと決まってるわけじゃないんだけど、どうもみんな10階に降りたいみたいなんだ。10階って危ないよねえ」
「そうだな」
「でね、もし俺が死ぬとするじゃない。そしたら、回収してくれる人いないと思うわけ」
「…そうだな」
「俺が怖いのって、そこなんだよ。だから、カイルが拾いに来てくれないかなぁと思って」
「なるほどな」
「それ頼みに来たんだ。モンスターに食べられてロストするのなんてやだからさ~」
「…」
カイルは口元に手をあて、思案した。
「…死体が判別出来る状態なら、拾ってやってもいいがな」
「わかんなかったら、そのへんの肉片全部持って帰ってよ~」
「私はビショップだぞ。そんな無駄な体力はない。幸運を祈るんだな」
「やだよ~。俺に何かあったらすぐわかるとか、そんな能力ないの?」
「馬鹿なことを言うな、私は超能力者ではない。…が…」
カイルは思いついたように立ち上がると、
「いいマジックアイテムがある」
棚からふたつの指輪を取り出した。
「なに?」
「つけている者の生命力に、反応するようになっている」
カイルは指輪をひとつ取りあげ、埋め込まれている宝石をヒメマルの方へ向けた。
「この宝石、今は黒いだろう。これを…」
カイルはヒメマルの指に、その指輪を嵌めた。
「あ、青くなった~!」
「そして、こちらを私が嵌める」
二つの指輪の宝石は共鳴するように輝くと、どちらも月光石のような白色になった。
「…こうしておいてから、片方が指輪をはずしたり、生命反応がなくなるようなことがあると-」
カイルは、自分のつけた指輪をはずした。
ヒメマルが自分の指輪を見ると-
「あ、あ!赤くなった!」
「…というわけだ。元々、戦地に赴く者と、その家族などの為に開発されたものだ」
「すご~い、パートナーに何かあったらすぐわかるんだ」
「私がこちらをつけておく。外さないようにな」
「うん、ありがとう!」
笑顔のヒメマルの目の前に、カイルは手の平を向けた。
「レンタル料金は、一週間100GP。前払いだ」
「…やっぱり?」
「当然だ。安いものじゃない。壊した時には50万GPで買い取って貰う」
「ひゃ~」
ヒメマルは情けない声を出しながらも、金貨袋をさぐった。
「でも死んじゃったらどうしようもないしね~。…はい、100GPぶん」
カイルは頷いて、ヒメマルの差し出した100GP相当の宝石を懐に仕舞った。
それじゃよろしく、とヒメマルが席を立った時、
「告白しないのか?」
カイルが不意に呟いた。
「…うーん」
ヒメマルは照れ臭そうに、頭を掻いた。
「自信はあるんだけどね。でも、楽しみはとっておきたいってのもあるし…」
そこまで言うと、少し笑って、
「カイルの時みたいに、さくっとOKとは…限らないからさ」
と続けるのに、
「…そうだな」
カイルも、目元と口元で小さく笑い返した。