77.説明

「ムラマサを使ってると、どんどん感情が昂ってくるんですよ。自分の状態を無視してでも、とにかく戦いたくなるというか」
「いわゆる、バーサーカー…狂戦士みたいに?」
「そう、そうですね。自分でも何かまずいという気はしていましたから、部屋に戻るまでは、理性で抑えよう、抑えようと意識してたんです。…が、部屋に戻って気を抜いたら…」
「ササハラを攻撃しちゃったの!?」
ヒメマルが言うと、
「…いえ…その」
イチジョウは少し赤くなると、咳払いをした。

「戦闘意欲と性欲が、ごっちゃになったというか…その…」
「あら~」
「とにかく、色々と…乱暴なことをしてしまったんですよ」
「で、ササハラは大丈夫なん?」
クロックハンドが聞く。
「一応マディをかけて、本人も大丈夫だと言っていたので、心配はないと思うんですが」
「そんでその、バーサーカーっぽい気分ってずっと続いてんのか?」
今度はトキオが尋ねる。
「いえ、今は全くの平常心です」
「ササハラにぶつけて、解消したってことかな?」
ヒメマルが推理する。
「かも知れません。もしかすると、眠ると治るのかも知れませんが…」
「せやけど、そんなんやったらまたムラマサ使うんは危ないんと違う?勢い余ってパーティに攻撃してもうたりせえへん?」
クロックハンドが心配そうに言った。
「それは…ないと思うんですが…。気分が高揚している間でも、敵味方の区別はついてますから」
「でもササハラには乱暴しちまったんだろ?」
トキオも不安を声に出す。
「いえ、…あの。ササハラ君に対してのことは、その…攻撃というより…行為の延長というか、そういう、感覚でしたから」
「じゃあ、使っても大丈夫ってこと?ほんとに?」
ヒメマルがイチジョウの顔を伺いながら言う。
「…」
イチジョウは腕を組んで、眉を寄せた。

「ずっと気を張ってないといけないんだろ。精神的な負担、大きいんじゃないか」
トキオが渋い表情で言うと、クロックハンドがそれに応じて頷く。
「戻る度に乱暴されてたらササハラも大変やろうしね」
「でもあの破壊力は魅力だ」
ティーカップはイチジョウの顔を見た。

イチジョウはしばらく目を閉じていたが、
「…今日一日、試験的に使いましょう」
決心したようにはっきりとそう言った。
「ササハラ君とは別の部屋に泊ります。眠るだけで治るものなら、使い続けても問題はないと思いますから」
「決まりだな」
ティーカップは満足気に頷く。
「…あの~」

ヒメマルが控えめに手を挙げた。
「…みんな、10階に降りるかどうかっていう話、考えた?」
「…」
「…」
「…」
「…」
「僕とトキオは眠らされたんだから無理に決まってるじゃないか」
ティーカップが呆れたように言う。
「やっぱり?」
ヒメマルが、眉を寄せながらも笑いを含んだ声で言った。
「眠らされたて何?」
事情を知らないクロックハンドがヒメマルを見る。
「ダブルと一緒になって、ティーとトキオにちょっとイタズラしたんだよ~」
「ヒメちゃん、自分が考えといてーて言うといて、考えようのあらへん状態に持っていってどないすんのな~」
「ほんとだね~」
「でも後でその話詳しく聞かせてな」
「うん!」
「イチジョウも10階のことを考えてる暇はなかったみたいだが、カッパ君は考えてきたか?」
ティーカップがクロックハンドに聞く。
「忘れとった!」
「だろうな。じゃあ、どうするのか今決めるべきだ」
皆が頷く。

「1階降りるだけで、そんなに急激に敵が強くなるとは思えないんですが…ヒメマル君、そんなに心配ですか?」
イチジョウがヒメマルに尋ねると、
「うー…ん。怖い、よね」
ヒメマルは歯切れ悪く返す。
「9階もいい加減飽きたぞ」
ティーカップが退屈そうに言う。
「お前は死ぬ死なないって心配より、飽きた飽きないの方が大事なんだからすげえよ」
トキオが言うと、
「ありがとう」
ティーカップは表情を全く動かさずに答えた。
「リーダー」
ブルーベルが軽く手を挙げている。
「うん?」
「10階は、転職まで待ってもらえると嬉しいんだけど」
「あ、ベルも、もうすぐか」
「うん。転職したら体力も一気に増えるだろ。ブレスなんかで先制攻撃された時に全滅する可能性が減らせると思うんだ」
ブルーベルはヒメマルの表情を確認しながら言った。
「あ、そうだよなあ!ベルがもうすぐってことは、ヒメマルも、もうすぐなんだろ?」
「…う、うん…」
ヒメマルが力なく返す。
「もう二、三回潜ったらいけそうか?」
「多分」
ブルーベルが肯定する。
「じゃあ急ぐもんじゃなし、そうするか!」
トキオが言うと、メンバーは頷いた。
ティーカップだけが、少しつまらなそうだ。

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