76.遅刻

ギルガメッシュのテーブルに頬杖をついて、ヒメマルは1人で待っていた。
もう10時15分だ。
今までみんな、いくら遅れても5分ほどだったのに…
色々と想像を巡らせてみる。

-イチジョウは、まだ体調が良くないとか。
 クロックハンドは久々だから、ひと晩中してたとか。
 トキオとティーは薬がききすぎてて、まだ寝てるとか。
 いや。案外、朝起きて慌てたものの、思わずそのまま…なんて、それはない?…ないかな~?


そこへ、半分閉じている目を擦りながらブルーベルがやってきた。
ここの所、いつ見ても眠そうだ。
「おはよ!」
ヒメマルが挨拶する。ブルーベルは小さく手をあげた。
「うん…あれ、みんなは?」
「まだなんだよ~」
「珍しいな」
ブルーベルは椅子に座ると、ぐったりとテーブルにうつ伏せた。
「眠そうだね~」
「…嫌んなるよ」
「寝かせてくれないの?」
「…いかせてくれない」
「て?」
「ほら…根元縛ったら出ないだろ。最近いっつもあれやるんだよ、俺じらされるの大嫌いなんだ。イきたい時にイけないの嫌なんだよ、疲れる…」
ブルーベルはぶつぶつと呟くように早口で言った。

それからまた5分ほどして、
「悪ぃ、遅くなったぁ」
トキオとティーカップが連れ立ってやって来た。
「昨晩はどうだった~?」
ヒメマルがにやつきながら言ったが、
「あっ、お前かー!!なんか盛ったろ、ンのやろぅ!!」
トキオにヘッドロックされると、
「わわ、違う違う、俺は共犯、主犯はダブルだよ~!」
ヒメマルはあっさり全部白状してしまった。
「やっぱそうか!!ったくよぉ」
トキオは腕をほどくと、笑って腰を降ろした。
「イチジョウとカッパ君は」
ティーカップがブルーベルに訊く。
「まだで…」
「ごめん~!」
クロックが小走りでやってきた。
「遅ぇぞ~!」
トキオが言う。
「ごめん、ごめんてほんま」
手をあわせて謝るクロックの顔は血色が良く、かなりツヤツヤしている。
「いいんだよクロック~、今日はみーんな遅刻してんだから」
ヒメマルが笑った。
「そうなん?なんやもう~。そういうたら、イチジョウも見あたらへんけど」
「まだなの」
「もう30分やのに。珍しいなあ」
クロックはテーブルのピーナツをひと掴み口にほうり込むと、もりもり食べた。

それから10分して、やっとイチジョウがやってきた。
「す、すいません…」
「どないしたんな~」
「それが…」

朝起きて隣を見ると、ササハラが満身創痍で息も絶え絶えになっていたのだという。

「宿でか!?なんかあったのかよ」
トキオが真剣な顔つきになる。
「私の仕業です。覚えてますから」
イチジョウは額に手をやった。
「ええ!?イチジョウもまさか酒乱とか?」
ヒメマルが言うと、イチジョウは手を振った。
「昨日は全然飲んでませんよ~。多分、ムラマサの所為なんです」
「どういうこと?」
「あのですね」
イチジョウはひと息ついて、話しはじめた。

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