75.夢

「…、ほァ?」
目を覚ましたトキオはワンテンポおいてから、おかしな声を出した。

服を着ずに寝ることは時々あるから、それはいいとして-仰向けに寝ている自分の上に、同じように裸の

…ティーカップの体半分が、乗っている。

というより、

絡まっている。
ティーカップの長い両腕がトキオの胸から首にかけて、ぐるりと巻きついているのだ。

-…夢ぇ…かぁ?
トキオはこの手の夢をよく見るのだ。

-…?…??えーと…
加えて、寝起き自体はいいものの、意識の方は起きてしばらく夢と現実が混ざるタイプなので、今の状況を正しく把握出来ず、何を考えていいかよくわからない。

トキオはゆるゆると自分の尻に手をあて、
-…だ…大丈夫。だ。
 …痛くねえし。そういう感じは、ねえや。

とりあえず、安心した。

-俺が、こいつをって、ことは…
記憶を辿っても、何も思い出せない。

-…っかしいなあ。
ご機嫌に酔って、気の合う相手とそのままベッドになだれ込む-というのは何度かやったことがあるが、記憶がなくなるという経験はなかった。

-なんも…覚えてねぇ…ぞ
状況に全然実感が湧かない。

-…やっぱ、夢だろなあ。

トキオは、自分の胸に乗っているティーカップの寝顔をぼんやりと眺めた。

…睫毛なげぇ…。

95%ぐらいの確信でこれを夢だと決め付けたトキオは、夢の中でよくやるように、ほとんど無意識にティーカップの背中に腕を回して、その髪に頬を寄せた。

…髪、下ろしてる方が…いいよ、…うん。 俺は よ。好み …は … * *  *

久々に触れる人肌が随分と気持ちよくて、トキオはまた、うとうとと眠りに入った。

*
ついさっき目を閉じた気がするのに、

「いつまで寝てるんだ」

声がして、シーツをめくられた。
目を擦りながら起き上がると、ベッドの横にすっかり準備の整っているティーカップが立っている。

「…よう」
「あと10分で10時だぞ」
「…え、マジか?」
時計を見る。9時50分だ。
「あ~」
トキオは、ぼりぼりと頭を掻いた。
「君はいつもこんな時間に起きてるのか?まあ君は、寝癖のままでも大して変わらないから、大して準備もいらないのかも知れないがな」
「…お前さ、髪。なんでそんなぺたっと上げちまうの?」
寝起きのトキオはかなりマイペースである。
「気持ちを引き締める為だよ、トキオ君。TPOという言葉を知らないのかね」
「下ろしてる方がいいぜ」
半分寝ぼけているトキオの言葉を無視して、
「さっさと顔を洗いたまえ」
ティーカップは苛立った声を出した。
「うん」
トキオはのそのそと起き上がってブリーフを履くと、洗面所に向かった。

「あのよぉ、…俺、昨晩のことなんも覚えてないんだけどよ」
顔を洗いながら、ぼんやりと言うと、
「僕だって飲んでた所までしか覚えてない」
ティーカップは平然とそう答えた。
「…とりあえず俺のケツは、大丈夫みたいなんだけど」
「当たり前だ。なんで僕が君にそんなことしなくちゃならないんだ。酔っても薬を打たれても催眠術をかけられても呪われてもそうしなければ命はないと言われてもそんなことをしてたまるものか。冗談じゃない」
ひどい言われようだが、
「…俺も、お前になんも…してないよな?」
トキオはまだ3分の1ほど夢の中にいるので、そんなに気にならない。

「ザルの僕らが酔ってどうこうなることは有り得ないだろう。大方、ダブルあたりが何か企んだと見るべきだ」
ティーカップは馬鹿馬鹿しさを手振りであらわしながら、あっさりと否定した。
「あ~…、言われてみりゃそうだなぁ、あいつならやりそうだ」
「早くしろ、あと3分しかない」
「…先行けばいいだろ。なんで待ってんだよ、お前」
「ここは僕の部屋だ。鍵をかけたいんだ」
「なぁる」
トキオは手ぐしで髪を整えて、服に袖を通した。

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