70.エキゾチック
宿に服を置いて装備を整えたトキオとティーカップが1時前にギルガメッシュに入ると、クロックハンドと転職を終えたイチジョウを含めたメンバー全てが、もう揃っていた。「よっ、デート帰り!」
ダブルが変な声をかける。
隣にクロックハンドが座っているから、色々聞いたのだろう。
初対面の2人だが、双方の性格から考えるに簡単に打ち解けたに違いない。
「違うって言ったろうがよ~」
トキオがクロックの頭をわしわしと揉む。
「あいややや、せやって、ええ感じやったやぁん」
そんなやりとりをまるで無視して、ティーカップはウェイターにシャンパンを頼むと、
「そんな面白い鎧、ボルタックにあったか?」
エキゾチックなあつらえのイチジョウの鎧に関心を示した。
「もとは悪の鎧という、ボルタックの商品です。ササハラくんが転職祝いにと、装飾専門のお店で東洋風にわざわざ仕立ててくれたんですよ」
イチジョウはそう答えると、照れ笑いした。属性は転職後にEに戻してきたらしい。
「そんな店あんのか?」
「ええ、ちょっと遠いんですが、侍や忍者には東洋フリークも多くて結構はやってるそうですよ」
「へぇえ~、すっげえいいよなぁ。俺も忍者になったらその店教えてもらえっかなあ」
「いつの話だ」
ティーカップが言うと、
「知らねえ。神様に聞いてくれ」
トキオは笑いとばした。
クロックがまた、それをアヒルのような顔で見ている。
シャンパンが届いたので、イチジョウの転職とミカヅキの無事蘇生(本人は自分のパーティに報告しに行っているらしい)兼クロックハンドの復帰を祝って、メンバーは乾杯した。
「で、パーティに戻るのはいつからだ?」
ダブルがクロックに訊く。
「んーとな、今日はゆっくりして明日からと思てんねんけど」
「了解!」
ダブルは胸元から小さな紙を取り出して、明日から掲示板に貼付する為の"雇い先求ム"メモを書きはじめた。
「あ!なあ、そんならよ、経験のあるダブルがいるうちに10階にもいっぺん降りておかないか?ムラマサもあることだし」
トキオがそう言い出した。
「おう、案内なら任せとけ!」
ダブルが景気よく応えるのを、横からヒメマルが制した。
「ままま、待って待って、ちょっと意見聞いてくれる?」
ヒメマルは、危険を冒してまで深い階層に潜る必要はないのではないか-という話をした。
「うーーん。言われてみればそうだなよあ。でも…」
トキオは難しい顔で唸る。
「潜ってみたいという好奇心も…ありますよね」
イチジョウも言う。皆、腕を組んで考えている。
「そんなにしり込みするほどのもんでもねえぞ?そりゃまあ、とんでもねえ化け物もたまにいるけどよ。こっちにゃ怪物図鑑もいるんだし」
ダブルはブルーベルの方をうかがった。
「…不意打ちされたり、逃げ損ねた時に全滅する危険性は?」
ブルーベルが逆に問い掛けた。
「そりゃもちろん、ゼロとは言えねえよ。けど、他の階でもそれはゼロじゃねえし…やばくなっても、すぐ城に戻れる仕掛けがそこかしこにあるぜ?こういうマークのついた魔方陣で、乗るだけで地上に戻れんだ」
ダブルが三角のようなマークをテーブルに描いて見せる。
ブルーベルはヒメマルを見た。
「…ん~」
眉間に皺を寄せている。納得しきれていないようだ。
「これは、すぐに答えを出すのは難しい問題ですねえ」
イチジョウがトキオに視線を送る。
「だなあ」
「ワードナの話の時みたいに、いっぺんそれぞれで考えてみるんはどない?」
クロックハンドの提案に、トキオはメンバーの顔を見回した。
「じゃ、今日は9階でムラマサの切れ味を見て、帰ったら各々考えるてことでどうだ?」
全員それで納得しているようだ。
「ほな俺、戻るわ!」
クロックは跳ねるように椅子から立ち上がった。
見れば、入り口近くにミカヅキが待っている。
ミカヅキはメンバーの視線に気がつくと、深々と頭を下げた。
クロックがミカヅキの方へ向かう途中、例のホビットのビショップが、ばっと両手を広げて立ちふさがった。
ビショップはクロックを指差して、
「俺、お前なんかに負けないからなー!!」
といきなり叫んだが、言葉を言い終わらないうちに、
「やかましい、邪魔じゃ!!」
クロックにまた殴り倒された。