69.服屋

迷宮入り口からかなり距離のある、大きな服屋だ。
同じ型で量産された服もあれば、有名なデザイナーの手がけた一点ものもあり、下着から実用着までなんでも揃っている。

「防具用の服なんか、ボルタックでも置いたらいいのにな。防具と合わせて売れば儲かるだろうによ。ここまで来るの面倒な奴なら少々割高でも多分買うぜ」
物色しながらトキオが言う。
「あの店はリサイクルが主な収入源だから、他に手間のかかることはしたくないんじゃないか」
ティーカップもトキオの横で服を広げている。

「お前もこういうの着るのか?」
防具の下着として作られた服なので、布地が固くて実用的なぶんデザインにお洒落心は微塵もない。
「今着けてる防具の内側のつくりが甘くて、服が傷つくんだ。こういう、どうでもいいものの方がいい」
「そうか。このシリーズはな、サイズが細かいんだよ。身長だけじゃなくて体格別に選べんだ。お前胸囲は?」
「君よりはスマートだ」
「計ったことないんだな、ちょっと後ろ向けよ。ちょい腕あげて」
トキオはティーカップの脇の下から胸に両腕を回して、
「…やっぱ、俺の1サイズ下だな」
と頷いた。
「変わった特技だな」
「ん?まあな。L2ってタグのやつがお前のサイズだよ、このへんの…」
棚を指差した時、
「デートしてるー!」
大きな声がした。

「俺がおらん間に2人の仲がこんなに進展してるなんて~、ええとこ見損ねた~」
両手を頬にあて、身体をくねらせるようなポーズで立っているのはクロックハンドだった。
「おーっ、久し振りだな!!」
ムキになるのを押えるクセがついてきたトキオには、冷やかされたことより久々に会ったことの方が大きい。
「あれ?否定せんいうのは何、ほんまにデートなんかいな」
「あ、いや、別にそうじゃねえよ。偶然だよ」
慌てる風でもなくそう返すのを聞いて、
「ふうーん」
クロックはアヒルのような顔になって、トキオをしげしげと眺めた。

「もうすっかりいいのか?」
ティーカップがクロックの後ろにいる男に話し掛けた。
男は少し赤くなって微笑むと、頷いた。
「知り合いか?」
トキオが訊くと、ティーカップは眉を寄せた。
「何だよ」
クロックハンドがひゃはっと声をあげ、
「トキオぉ、これミカヅキや」
と言った。

「マジかー!?」
髪を下ろして眼鏡をかけ、鎖帷子を着ていないミカヅキはまるで別人だ。
「…じゃねえや、まずとにかくおめでとうだよな。無事蘇生出来てほんっと、良かったなぁ」
トキオは両手でミカヅキの手を取って、握った。ミカヅキは恥ずかしそうに頷き、クロックハンドはミカヅキを見上げて笑った。
「他の連中にはもう会ったのか?」
ティーカップがクロックハンドに聞く。
「まだやねん。今日集合1時ていうのは聞いたから、その時顔出してみんなにお知らせしようと思てね。…ほなら、お邪魔になるんもなんやし」
クロックハンドはミカヅキの袖を引っ張った。
「また1時に~」

2人がファッション性の高い服の売り場に向かった後も、トキオはずっとニコニコしていた。
「良かったよなぁ~」
「そうだな」
「なんだ、お前でもそういう風に思うのか」
「僕が血も涙もないような言い方をするな。久し振りだとか言ってたが、君は彼が休んでる間、一度も会いに行かなかったのか?」
「行こうかと思ったけど、何話せばいいかわかんねえからよ。こっちがギクシャクしてりゃ逆に気遣わせるだろ?…そんでお前は、さっきからなんでその二つずっと持ってんだ」
トキオはティーカップが一着ずつ手にしている、色違いで同じデザインの服を見ながらそう言った。
「ああ、決めかねてるんだ」
「一枚だけにすんのか?なら、お前にはそっちが似合う」
トキオは萌黄色の服を指差して即答した。

ティーカップはしばらく二枚の服を見比べていたが、結局萌黄色の方に決めて、もう一枚は棚に戻した。

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