68.普段着

トキオは昼前に起きた。
今日は服を買いに行く予定だ。
家を出る時に持ってきた服は、どれもボロボロになってきた。

前衛だからということもあるが、冒険者の服というものは、何度か潜れば擦れたり切れたり破けたりですぐ穴だらけになる。汗の匂いやシミもたっぷり付く。
仕事着は消耗品だから普段着とは別物にするべきだ、というのがトキオの考えだ。
しばらく着ていなかった「普段着」に袖を通して、ドアを開けたのが隣のティーカップと同時だった。

ティーカップはトキオを上から下までじろじろ観察すると、
「少しは見られる服もあるんじゃないか」
と言った。
当人は、ヒラヒラしてピンクの光沢のある柔らかそうな生地の白いブラウスに、ラメ入りの黒いブーツカットのパンツという、トキオが死ぬまで着ることのなさそうなコーディネートでまとめている。
これが彼の「普段着」らしい。
「まぁな」
二秒ほど唇を舐めて-落ち着いてから、トキオはそう答えた。
「どこに行くんだ」
「防具下用の服、買いに行こうと思ってよ」
「僕もだ」
「…」

道中、相変わらずティーカップはからんできた。
トキオは自分が素直になることでティーカップもつまらなくなるだろうから、からまれる機会は減ると思っていたのだが、そんなことは全くなかった。
むしろ逆に、増えたような気すらする。

「君の服はどれもこれも分厚いのに、どうしてすぐ穴だらけになるんだ」
「…防御が下手なんだろ」
「だろうな」
「そう思ってたんならわざわざ訊くなよ」
「自覚はあるのかなと思ってね」
「…心配して貰わなくてもその程度の自覚くらいあらあ」
「心配なんかしてないぞ」
「…わかってんよ」
「じゃあ言うな」
「皮肉だよ」
「通じない皮肉は」
「ああ俺が悪かったよ」
トキオは投げやりに言った。
ティーカップがちらりとその横顔を伺う。

少し歩いてから、トキオは大きく溜め息をつくと、
「…前にも訊いたような気がするけどよ」
またひと息つき、片手を腰にあてて、
「なんでお前はそう、俺にばっかりからむんだよ」
手振りを加え、多少強めの声を-しかしなるべく静かに出した。
「からかい甲斐があるからだよ」
「ここんとこからかい甲斐のあるような返事はしちゃいないだろ?」
「どこまで我慢するのかなと思って」
トキオは脱力した。絡まれる回数が増えていたのは、気のせいではなかったらしい。
「…だからな、なんでわざわざそこまでするんだよ」
「そうせずにいられないからだよ」
「そんなに俺のことが気になるのかよ」
力なく言うと、ティーカップは黙りこんだ。

-こいつ、何かまた、ためてためて思い切り突き放すようなこと言うんだろうな。

「-僕は、」
「おっ、あそこだあそこ」
ティーカップを遮って、トキオは店を指差した。

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