67.らしくない
次の日。天気もよく日差しが暖かいので、ヒメマルは午前中も円形土砦跡でのんびり日光浴をしていた。野宿の延長である。
今ごろ、イチジョウは「ガタガタやっている」所だろうか。
「俺が行こうかなぁ…」
ヒメマルが呟くと、
「どこに?」
横で、目に日除けのあて布をして寝そべっているブルーベルが言った。
ブルーベルは、「日中は、部屋では眠れない」らしい。眠らせてもらえない、と解釈するのが正しいだろう。
「ミカヅキ蘇生してもらいに、カントに行こうかなーって」
「…」
ブルーベルの目が、布の下でヒメマルの方へ動いた。
「何言ってるんだ?」
Gでも言い出しそうにないことだ。
「クロックはさ、ああいう感じだから、傍目にはあんまりわからないけど…本当は絶対、ミカヅキに会いたいに決まってるよ」
「そりゃそうだろうけど、だからってなんでヒメマルが行かなきゃいけないんだよ」
ブルーベルは、あて布を取ると、上体を起こした。
ヒメマルは、しばらく黙っていたが、
「だって、やっぱり辛いし、怖いよ。自分が好きな人を死なせちゃう可能性があるなんてさ」
「それで怨まれ役かって出るって?らしくないよヒメマル。気付かないうちに、属性変わったんじゃないか?」
ヒメマルは、膝を抱えて、じっと地面を見つめている。
「俺だったら、絶対また、会わせてあげられるんだ」
「…え?」
ヒメマルは確かに運の能力の判定値が高い。が…蘇生時に問題になるのは灰になった本人の運と生命力だ。
そのことを知らないのか、それとも他に何かあるのか-
「その…、絶対って言い切るだけの…根拠は?」
「うん、あの…なんていうかさ」
ヒメマルは頬杖をついて、しばらく言葉を探していたが、
「自信っていうか…。うん、自信があるんだ」
ブルーベルは呆れて言葉を失った。なんの根拠にもなっていない。
しばらく会話が途切れた後-
ヒメマルが、覇気のない声で喋りだした。
「ね、…ベルも、一度カントに行ったよね」
「ああ」
ヒメマルは視線を落とした。
「何言ってもさ、カントまで運んでくれたり、蘇生呪文かけてくれる人がいると思うから、命懸けでも迷宮に潜れるんだよね」
「まあ、そうだろうな」
「運んでくれる人がいなかったら…怖いよねえ」
ヒメマルは静かに言う。
「…全滅が怖いのか?」
深い階層で全滅して、回収してくれる者もなく、冷たい地下で朽ちていく恐怖は、冒険者なら誰でも想像したことがあるに違いない。
それにはブルーベルも共感出来る。
「…ワードナを倒すって目的も、今は曖昧なんだし…10階まで潜らなくっても、別にいいと思うんだよね。4階とか5階とかで無難に勝てる怪物を相手にしててもさ、生活していくだけのお金は稼げると思うんだ」
「…それは…」
一理、ある。
「…メンバーみんなに言ってみた方がいいんじゃないか」
*
クロックハンドは、壷を抱えてカントの入り口に立っていた。-思い立ったら吉日や。
昨晩は二、三日中に行くと言ったが、時間が経てばまた決心が鈍るのは目にみえている。
頷いて大きく息を吸い込むと、壷に向かって呟いた。
「怨むなや」