66.つれない

「なぁ、俺とつきあわねえか」
ベッドの上で半身を起こしたキャドは、煙草に火をつけながらそう言った。
「…何?」
ブルーベルは脱力したままでちらりとキャドを見上げる。
「つきあわねえかって」
「…」
紫煙を吐くキャドをしばらくぼんやり見て、ブルーベルは、
「何、それ」
とけだるい声を出した。

「他の奴と寝るなってことか?」
「まあ、具体的にはそんなもんかね」
キャドは肩で小さく苦笑した。
「…それで、休みの日にはデートでもするのか?お買い物して、お食事して?」
明らかに気のない声だ。
「嫌か?」
「…なんでつきあうだの…いちいち改まって…」
ブルーベルは「意味ないだろ」、と息を吐くように呟いた。
「意味ねえ…ん~、俺の自己満足ってとこだな」
「独占欲?…やめとけよ。…そのうち飽きるから」
「俺が、か?」
「…」
眠気に誘われて、ブルーベルは半眼になっている。
「…お前が、か」
キャドは笑った。

「俺は、誰とでも …やりたい時に やりたい 。」
半分眠りながら、ブルーベルは独り言のように呟いた。
「他で俺とやるほど良くなれるか?」
キャドの声には自信の響きがある。
「…やってみなきゃ わからないだろ」
もうほとんど眠っているブルーベルは、口元だけで呟く。
「俺と毎日こんだけやってても、足りないか?」

ブルーベルの目がはっきり開いた。
「毎日毎日何度もするのは、他でやる余裕なくす為かよ」
半ば呆れるように言うのに、キャドは煙草を吸いながら笑って答えた。
「いや、やりたいからやってる。そっちはついでだ」
ブルーベルは溜め息をついた。
「…で、駄目か?」
「しつこいよ」
キャドに背を向けると、ブルーベルは目を閉じた。

-つれねえなぁ、予想通りだけど。
キャドは煙草を咥えた口元で小さく笑った。
毎日のようにこうして寝ているのもあくまで体の相性がいいからであって、気持ちの面で惹かれているわけではないのだから、ベルにとってキャドと「つきあう」ことで生じるメリットは何もないのだ。

キャド自身ベタベタされるのは好きではないので、これくらいドライな方がいい。
そういう所こそが気に入っているのだが、この手合いが独占欲を嫌うのもよくわかる。
-無理な注文かね。

キャドは寝息をたてはじめたベルの髪に指を差し込んだ。
柔らかいウェーブを弄んでいるうち、ふと、根元の色が少し違うことに気付いた。
森のエルフには生まれつき緑色の髪の者も多くいるし、ベルはハーフエルフだからそういうこともあるのかと思っていたが-、
-元々青いわきゃないか。
近づいてじっくり見ると、元は金色のようだ。
金でも似合うだろうに-などと思っているうち、洗髪剤と汗の混じった匂いに、体がムズムズしてきた。

-二回出してんのに、なんでこうだろうな、俺も。
キャドは枕元の灰皿で煙草をもみ消した。

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