65.行水

クロックハンドが「休憩」に入って、あっという間に一週間が過ぎた。
*
8日目の夕食の席。
「皆さん」
イチジョウが咳払いをした。
「明日、転職して来ます」
「わあ、おめでとー!」
「ありがとうございます!」
イチジョウは本当に嬉しそうだ。
「じゃあ、明日はイチジョウが帰ってくるまで休みだな。侍なら属性変えて来なきゃいけないだろ」
「そうですね、少なくとも午前中いっぱいは戻って来れないと思います」
「じゃあ、とりあえず1時にしようか」
ということで、明日の午後集合が決定した。

「…あのさ」
話がひと段落したのを見計らって、トキオが言った。
「俺、気になって仕方なかったんだけどよ。なんかイチジョウだけ、呪文覚えたりするペース早くなかったか?」
トキオは同じクラスということもあり、ある時期まではほとんど追いついていたから、成長スピードに差が出たことが気になっていたのだ。
「イチジョウは君がぐうたら寝てる時にも潜ってるんだから、早くて当たり前だ」
ティーカップが澄まし顔で答えた。
「そうなのかよ!?」
イチジョウは笑顔で頷いた。
「すげえ」
最近は朝10時から夜7時まで潜っている。
その後にまた潜るなんて、思いもしなかったことだ。
「早くムラマサが握りたくて…子供みたいな動機なんですけど」
イチジョウは少し頬を紅くして笑った。

-メシ食って体力補充してからなら、俺もちょっと潜れるかも。

とトキオが思った時、それを見透かしたように、
「カラスに行水は出来ないぞ」
ティーカップが言った。
*
クロックの部屋には復帰の可否の確認にくるティーカップとは別に、探索の状況や今日あったことなどを話しに、ヒメマルが毎日顔を出していた。

「へぇええ~、イチジョウついに転職かぁ~」
「クロックもさ、潜らなくっていいから、ギルガメッシュに顔出したらいいんだよ」
「せやなぁ、そのセクハラ盗賊兄ちゃんとやらにも会うてみたいしなぁ…けどな、みんなに気ぃ遣わせるような気するんやわ」
「みんな、Eのわりに気にしそうだもんね」
「ヒメちゃんかて毎日こうやって来てくれるしな」
「でも、それを気にするクロックもEらしくないよね」
「はっ…ほんまやん」
2人はケラケラと笑った。

「せやけど…そろそろほんま、行かんとね」
テーブルに置かれた壷に目をやって、クロックハンドが言った。
「急がなくてもいいと思うよ」
ヒメマルは真剣にそう答えた。
「んー、時間経つと実感薄れて来てなぁ。今ならいけるん違うかな思うねん。それに、灰は所詮灰や。このままやと添い寝の役にも立たへん。ティーにもせかされてることやし」
「えっ、ティーが、せかすの?」
「そや」
「早くカント行けって?」
「うん」
クロックは何故かニマッと笑った。

「まあとにかく、2、3日中には行ってくるわ」

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