62.本気

「エルフてなぁ、俺やお前さんみたいなとことん直球タイプの人間からすりゃあ、何考えてるかわかんねえとこがあるからなあ。それも愛情表現かも知れねえぞ?」
そう言うと、ダブルは湯船に浸かった。
「わかんねえ奴のこと好きにはなれねえよ」
トキオはボディブラシに液体ソープをふりかけて、椅子に座った。
「言い切れるのか?」
「…お前、おせっかい焼くために来たのか?」
トキオの声が少し不機嫌になる。
「いいや」
「じゃあほっといてくれよ」
「そうも行かねえんだよ」
「何なんだよ!」
ヤケ気味に浴槽の方を向いたトキオに、ダブルの真剣な視線が当たった。

「俺はお前さんと寝たくて来た」

トキオの目が泳いだ。
「少し喋りゃあ大体わかるんだよ。お前さん、俺みたいなタイプと遊ぶのは嫌いじゃねえはずだ」
「…まぁ…な」
トキオは視線を外したままで、体を洗い続けた。
「-が、どうも乗り気じゃあねえ。なんでかってえと、気になる奴がいるからだ」
「…」
「遊ぶ時はとことん遊ぶけど、好きな奴が出来たら身動き出来なくなるタイプなんだろ?」
その通りだが、トキオは答えない。
「だからよ、そのへんをとことん追求しようと思ってよ。ティーカップのことマジで気になってんなら、俺が無理に何かしようったってノれやしねえだろ、お前さん」
ダブルは泡まじりの湯をすくって、顔を洗った。
「ま、返事のねえとこ見ると、本格的に気になってんだろうなぁ」
手に持ったボディブラシに視線を落として無言になっているトキオを見て、ダブルは頭を掻いた。

「…あのよ」
そのままの姿勢で、トキオが呟いた。
「ん?」
「俺、ホント…自分でもよくわかんねえんだよ。…でも、」

確かにそうなのだ。
普段なら、ダブルみたいなタイプとは一も二もなく遊んでいるはずだ。
タチ同士ではあるが、それならそれで楽しみ方はある。入れるばかりがセックスではない。
シキに誘われた時は平気だったのに、今そういう気になれないのは-

「やっぱ、気になってんだ、よな」
トキオが自分に言い聞かせるようにするのを聞いて、
「はぁ~あ」
ダブルが大袈裟に溜め息をついた。
「今日んとこは諦めるかぁ」
「悪ィ」
別にそんな必要はないのだが、トキオは自然と謝っていた。
「フラれたら言ってくれよ、気晴らしにパーっとやろうぜ」
「頼む…って言っていいもんか、ちっと悩むな!」
トキオは大口を開けて笑った。

ダブルはカラカラと笑い返しながら、
-てんで本気じゃねえか。
と、心の中では苦笑した。

本当に、気になっている程度なら、強引になんとでもしてやろうと思っていたのだ。
予想外にトキオがナイーブで、その上思ったより本気だったせいで、すっかりあてがはずれてしまった。

-こいつ、面倒見のいい年上好きになりゃあ、苦労しねえのになあ。
ダブルから見ても、何を考えているのかわからない-年齢すら定かではないティーカップの姿が頭に浮かぶ。
-ややっこしそうなのに惚れやがって…
ダブルはもう一度、顔を洗った。

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