61.風呂

「足長いな」
少し緊張しながら入ってきたトキオに向かって、浴槽の縁に腰かけていたダブルはそう言った。
「そ、そうかな」
いつもティーカップの横にいて多少なりともコンプレックスを感じていただけに、妙に嬉しい。
「タオルはいただけねえけどなあ」
巻かれた腰の中央を見つめながら、ニヤニヤする。
ダブルはどっかりと足を開いて、体格と性格に見合ったモノを隠そうともしない。

「皮でも被ってんのか?」
「ちっ、違う!!」
なんでみんな同じようなことを言うのかと思いながら、トキオは赤くなる。
「違うなら見せてみろ、ホレ」
端をグイグイ引っ張られて、トキオは必死に防戦した。
「やっぱそうなんじゃねえのか?それともサイズがカワイーのか?」
「違う、お前に見せたら何されるかわかんねえから守ってんだ」
「人ぎきの悪いこと言うんじゃねえ」
「そ、それと俺は恥ずかしがり屋さんなんだ」
「男ならスパッと諦めねえか」
「諦めるってなんだ、やっぱお前なんか変なこと考えてるだろギャー
結局タオルは簡単に剥かれてしまったので、トキオは開き直って仁王立ちになった。

ダブルは「ほぉ」、と、感心するような声を出した。
「なんでえ、いいモン持ってんじゃねえか。あーそうか、隠すんだから小さいだろうって思わせといて、出したらすごいんですって作戦か」
「作戦じゃねえって。俺はマジで照れ屋なんだって」
「その割にゃ開き直りがはええなあ」
ダブルはカラカラ笑った。
「しかし、それ毎度突っ込まれてたら大変だなぁ。背は高ぇけど、エルフなんだからやっぱ人よりは華奢なんだろ?」
「え?」
「突っ込んでねえのか?」
「誰にだよ」
「ティーカップに」
「なぁあ!?」
トキオの頭の中で、妄想が爆発した。

「なんでまだ、またそんなこと言って、言えるんだよ、あんだけ関係ないって言ったろ、よ、俺は!が!」
想像したことが言語中枢まで侵入しているらしく、自分でも何を言っているのかよくわからない。
「やっぱ片想いか」
「な、なんで片想いだよ」
不意の刺激にすっかり血が昇った、というか下に集まったトキオは、ダブルに背中を向けてそう切りかえすのが精いっぱいだ。
「お前さんはあんまりムキになるし、あっちはあっちで変に冷静だろ?つきあってんの隠してんのかも知れねえと思ってたんだよ。そうじゃねえならムキになってる方の片想いだ」
「なんで片想いってことになんだよ。想ってねえよ」
「お前さん、ティーカップのことやたら意識してるじゃねえか。あれじゃあ昨日今日会ったばっかりの俺にでも丸分かりだぜ?」
ダブルはニヤニヤ笑いを浮かべながら、トキオの背中を見上げている。

「…あいつが何かと俺に喧嘩売るから、やり返してるだけだ」
「やりこめられてるだけに見えるがなぁ」
「そりゃ、俺は弁がたたねえから、…でも言い返さずにいられねえし」
「ティーカップにそうやってやりこめられてるのは、お前さんだけか?」
言われて思い返してみる。クロックハンドは時々ティーカップにいじられているが、トキオに対するものとは性質が違うだろう。
「…俺だけだと思う。おちょくりがいがあるんだろうよ」
「やっこさんもお前さんのことが気になって、ちょっかい出さずにいられないんじゃないのか」
「そういうことはあいつに言ってみたことあるけどよ、違ったし」
「なんて言ったらなんて答えた?」
「好きだからいじめたいのかって言ったら、冗談は休み休み言えとかすげー目つきで言われた」
「それこそ照れてんじゃあねえのか」
「あの、人見下したようなツラ見てそう思える奴はいねえよ。大体あいつが照れるタマかよ」

あの時の能面のような顔と視線を思い出すと、股間が少し落ち着いてきた。

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